姉妹芸能人の「格差」と重圧
もう一つ、思春期の広瀬アリスには重いプレッシャーがあった。彼女を追ってデビューした妹、広瀬すずの成功だ。芸能界に限らず、スポーツや文化の世界でも兄弟は比較されがちだ。オリンピックで銅メダルを取れば普通は国民的スターだが、兄弟が金メダルを取れば「あなたも次は金を」と周りはしばしば期待する。
本来は賞賛されるレベルの成績が、兄弟姉妹のそれ以上の成績によって相対化されてしまう、という例は枚挙にいとまがない。漫画家の世界でも、ちばてつや・ちばあきお、あだち充・あだち勉といった兄弟の表現者はいるが、周囲が比較し、また本人たちが互いにプレッシャーを感じる中、双方が十分に活躍する幸福な状況でいられることはむしろ稀だ。
広瀬すず自身もまた、2016年に『ちはやふる』で共演した松岡茉優との対談では、「周りから『アリスの妹』って言われることが多くて。それがすごく悔しかったし、イヤだった」と語っている。だが、その後の広瀬すずのブレイクによって、今度は姉のアリスにその比較と重圧の風が吹くことになる。
近年、広瀬アリスの出演ドラマで大きなヒットとなった『ラジエーションハウス』は昨年、第2シーズンが放送され、春には映画化も控えている人気シリーズだ。若い放射線技師たちを描くその第2シーズンの第8話に、印象的なエピソードがあった。
Twitterで「あははっ昔の私だー」
第8話の物語の中で、アイドルを目指す女子高生、乃愛は妹と比較され、無理なダイエットで精神と健康を害している。広瀬アリスが演じる放射線技師、広瀬裕乃は彼女を説得しようとするが、乃愛は聞く耳を持たない。
SNSで視聴者が反応し、息を呑んだのには理由がある。ストーリーの中で、乃愛にネットで浴びせられる「妹の劣化版」「妹は細いのに姉は…」といった心ない匿名の揶揄は、かつて広瀬アリスに浴びせられていたものとそっくりだったからだ。SNSの反響に対して、彼女はTwitterで「あははっ昔の私だー」「観てくれてありがとう、今の私は大丈夫だからね、しっかり受け入れて楽しく生きてます」という明るい反応を返した。
自戒をこめて書くなら、そうした揶揄は匿名ネットだけではなく、芸能メディアの中にもあり、姉妹芸能人の「格差」を意図的に誇張し、「女の嫉妬が」という定型に落とし込む記事の手法は一種の手癖のようになっている面もある。そうした声に翻弄され、健康を害していく若い女性を描くことは、広瀬裕乃役に広瀬アリスをキャスティングしたドラマスタッフからのメッセージにも思えた。