猛スピードで突進! というものだけが徹夜本ではない。軽快につるつる読んでしまい、気づけば後戻りできないところまで来てしまっていて、もはや徹夜で読み切るほかなくなる――そういう本もある。

 若竹七海の長篇ミステリー『悪いうさぎ』が、まさにそんな一冊である。

 主人公は探偵事務所に勤める31歳の女性・葉村晶。独身。豪奢な屋敷に呼びだされた葉村は、失踪した娘の捜索を依頼される。娘は高校生、家を出て十日が経過していた。調査をはじめた直後に娘の友人が殺害され、他にも行方不明の女子高生がいることが判明。失踪する前に少女は、「ゲーム」で大金を稼ぐと言っていたというが……。

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 と書くと、よくある援助交際がらみの鬱ミステリーに見えるかもしれないが、大ハズレ。「ゲーム」の真相はあなたの予想のナナメ上をいく強烈なもの。おかげで葉村は女探偵史上で類をみないトンデモない危機に陥るのだ。

 しかも事件はこれだけではない。序章で描かれる小事件もあとを引き、親友の彼氏にまつわる問題もあり、そもそも冒頭で葉村は足の指を骨折していて最後まで足が痛い!

 でも葉村はくじけない。ユーモアは決して忘れず、真剣に仕事をする。どんな悪意に出会っても絶望しない。凹んだらキチンとごはんを食べる。そして“健康的に怒る”のだ。

 リアルな悪意に立ち向かう健康なユーモアと正義感。この快活な魅力に、ミステリーとしての細かな造り込みが加わった無敵の一冊、読み終えれば「よし自分もいっちょ真剣に仕事してやるか」という気持ちになれること請け合いなので、どうです、木曜の読書に最適でしょう?(紺)

悪いうさぎ (文春文庫)

若竹 七海 (著)

文藝春秋
2004年7月 発売

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