今年度のクマによる人身被害は過去最多に。クマ被害の背景と野生動物への向き合い方に迫る。

 札幌の大学に通う岸谷万智(マチ)が狩猟に惹かれ、ハンターとしての一歩を踏み出す――「週刊文春」で連載された『夜明けのハントレス』(2月20日小社刊)は、それまで狩猟に縁のなかった主人公の視点から、時に身を危険に晒しながら野生動物に向き合う境地から昨今のクマ被害まで、狩猟の世界を新鮮に描き出す長編小説だ。

 作者の河﨑秋子さんと、北海道東部で牛を次々と襲ったヒグマ「OSO18」の捕獲作戦を指揮し、『OSO18を追え』の著者でもある藤本靖さんが、クマ被害が広がった背景やクマの恐ろしさ、野生動物との共存のあり方について語った。(全2回の2回目/はじめから読む

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ヒグマ(北海道斜里町) ©時事通信フォト

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OSO18はシカをたくさん食べていた

河﨑 そういえば、子供の頃、知り合いの農家で飼っている馬がクマに尻をかじられたことがありました。

藤本 ここ数年で肉食化したクマが増えた最大の理由は、エゾシカが増えて、ハンターがシカの駆除に傾注してしまっていることです。改良を重ねた栄養たっぷりの牧草を食べるようになったエゾシカが、本来はエサのないはずの冬を越せるようになった。そのエゾシカが農作物を食害し、被害額が年々増えている。そこでハンターがエゾシカを駆除するわけですが、証明写真だけを撮って撃ったシカを捨ててしまうんです。

河﨑 エゾシカを駆除すると補助金が出ますしね。

藤本 本当は、捕獲後は持ち帰るかその場に埋設するなどして適切に処理しなければならないのに、それが大変なので不法投棄してしまう。OSOは、そうやって捨てられたエゾシカの肉を食べて、肉食化していったのでしょう。

河﨑 酪農の話をすると、一時期、牛舎の中で牛を繋がず自由に歩き回れるようにしたフリーストール形式が増えていたんです。それが円安で輸入飼料が高くなり、放牧酪農の方がコストが安くなって、昔ながらの放牧が増えました。それで牛が襲われやすくなったというのもあるかもしれません。あと、デントコーンの普及も。クマをとりまく環境と、酪農側の事情とがよくない形で組み合わさってしまったのかなと思います。

藤本 クマはもともと、牛を餌だとあまり認識していないんです。少し極端な話をすると、シカを追っていたクマが牛のたくさんいるところに飛び出てきても、クマは牛に見向きもせずにシカを襲うことが多いんです。それがOSOのようにスイッチが入って牛を餌だと覚えてしまうと、手が付けられなくなってしまう。