今年度のクマによる人身被害は過去最多に。クマ被害の背景と野生動物への向き合い方に迫る。
札幌の大学に通う岸谷万智(マチ)が狩猟に惹かれ、ハンターとしての一歩を踏み出す――「週刊文春」で連載された『夜明けのハントレス』(2月20日、文藝春秋刊)は、それまで狩猟に縁のなかった主人公の視点から、時に身を危険に晒しながら野生動物に向き合う境地から昨今のクマ被害まで、狩猟の世界を新鮮に描き出す長編小説だ。
作者の河﨑秋子さんと、北海道東部で牛を次々と襲ったヒグマ「OSO18」の捕獲作戦を指揮し、『OSO18を追え』の著者でもある藤本靖さんが、クマ被害が広がった背景やクマの恐ろしさ、野生動物との共存のあり方について語った。(全2回の1回目/#2に続く)
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河﨑 『夜明けのハントレス』は2024年9月から約1年間連載しました。マチがハンターとして成長していくなかで、山で人がクマに襲われる事件が起き、マチもそのクマの駆除に参加する――この構成は連載開始の時点で決めていたのですが、連載中も人がクマに襲われる事件がたくさん起こり、まさか現実でここまで被害が広がるとは想定していなかったので驚きました。
藤本 2025年にクマの被害にあって亡くなった方は13人、過去最多となってしまいました。クマ被害が増えた理由の一つは、単純に、クマの数が増えたことです。私は「昔に戻った」という言い方をするのですが。いま北海道のヒグマは、昭和40年代前半と同じくらいの生息数になっていると思います。
クマを獲ってもお金にならなくなった
河﨑 やはり、クマの保護政策がとられたことが大きいのでしょうか。
藤本 そうですね。北海道では長らく春グマ駆除が行われていました。冬眠明けの一番獲りやすい時期にクマを獲っていたんです。それが保護政策へと転換し、1989年を以て春グマ駆除が廃止されて以降、クマが増えました。
もう一つは、クマを獲ってもお金にならなくなったことです。春グマ駆除をやっていた時代は、毛皮や肉、「熊の胆(い)」と呼ばれる胆嚢などが高く売れて、クマを1頭獲ると当時の値段で100万円以上がついていました。それが、92年にワシントン条約の項目にクマが追加されて毛皮や熊の胆が輸出できなくなり、クマを獲ってもその対価が極端に下がってしまったので、山林までクマを捕獲しにいくハンターが少なくなってしまったんです。
