河﨑 実家の牧場や畑もシカの被害には困っていたので、シカ撃ちのハンターさんに入ってもらい、その様子を離れた安全な場所から見学したことはあったんです。山菜採りなどで山に入ることもよくあります。でも今回、ハンターの方に同行させていただき、初めてシカを追って山に入ってみたら、神経の使い方が全然違うと感じました。山菜採りに行くときも当然クマには気をつけますが、獲物を獲るために山に入るとなると、自分の安全にも気をつけつつ、獲物の気配を感じなければならないので、五感の使い方が全く違うんです。その感覚は、マチが狩りをする時の描写に落とし込みました。

藤本 私も以前は、ハンター仲間から「そろそろ銃を持ったらどうだ」なんて言われてたんです。でも最近は、「猟銃を持たないでここまで猟に詳しいやつはいねえんだから、貴重な存在だ。だからもうお前は銃はいらねえよ」って言われます(笑)。

野生動物は男か女かなんて関係ない

河﨑 猟銃で狩猟を行うには、都道府県知事が発行する狩猟免許と、警察が許可する銃砲所持許可とが必要で、始められるようになるまでの道のりが長いんですね。銃を保管するためにガンロッカーの設置も必要で、その検査もあります。責任の面でも金銭的な意味でも、狩猟を始める際のハードルは高いと感じました。

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藤本 私が猟銃を持たない最大の理由もそこにあるんです。猟銃を持つためには、手続きや検査、その他にも定期的に講習に出る必要があったり、とにかく時間もお金もかかる。ですから、クマが増えたからといって急にハンターを増やせといっても、そう簡単な話ではないんです。

『夜明けのハントレス』では女性がハンターになる大変さも描かれていましたね。実際に、女性の場合は狩猟を始めても、結婚すると家事や家のことで制約を受けることが多くなり、そこでいったん区切りがついてしまう人も多いようです。子供が大きくなって手が離れるとまた状況も変わってくるのかもしれませんが。

札幌の町中に出没した158キロのオス ©時事通信社

河﨑 男性でも、定年後に狩猟免許を取る方もいらっしゃいますし、仕事や生活が落ち着いた後に狩猟免許を取るという選択肢があってもいいですね。小説では、狩猟を始めたマチに対して恋人が距離を置いたり、友人が反発したりする様子も描きましたが、「なぜそんな危険でお金もかかる趣味を、しかも女性が」という視線はまだあると感じます。

藤本 とはいえ、マチもそうですが、女性が狩猟に向いていないということはないと思います。大学の実習で学生が来るので、シカを獲って解体させるのですが、女性のほうが得意な人が多いですね。

河﨑 案外、解体は男性のほうが抵抗を感じる人が多いという話は取材の時も聞きました。狩猟は動物の命を奪う行為なので、初めて自分の手で銃を撃って、解体してみて、その時に自分の中で「あ、これは無理だ」と気づく方もいらっしゃると思いますが、それでいいのだと思います。もしダメだと感じたら、無理せずに止めればいいだけのことです。