藤本 小説にもマチが初めて獲物の解体を見学するシーンが出てきましたが、たとえば腹を裂く時に、それを気持ち悪いと思う人もいるし、そうでない人もいる。感性の差ですよね。それをマチ自身はどう感じるか――というあの描写も、すごくよかったです。
河﨑 男女で多少体力の差はあると思いますが、今は獲物を運ぶのにウィンチなどの道具もあるので、女性だから無理だということはないと思い、そこは作中でも反映させたかったです。何より動物にとっては、命を駆け引きする相手が男か女かなんて、関係ないですから。そこが、マチが狩猟に惹かれる理由でもあります。
藤本 その通りですね。
河﨑 藤本さんがクマの調査にかかわるようになったきっかけは、釣りだったそうですね。
藤本 ええ。趣味が釣りなのですが、サケが遡上する地元の川はヒグマの生息地でもあるんです。年々、クマと釣り人が遭遇することが増えてきて、それに危機感を覚えて2006年にNPO法人「南知床・ヒグマ情報センター」を設立しました。クマの生態を調査・研究して、有害なクマの捕獲も行います。
OSO18の被害は当初、標茶(しべちゃ)町や厚岸(あっけし)町に集中していたのですが、その3年後には被害が広がって、自治体レベルでの対応が難しいと判断され、私たちも捕獲作戦に参加することになったんです。
河﨑 本来クマは雑食でコクワやセリなどを食べますが、OSOは肉食化していたそうですね。こういうクマが出てくることは予想されていたのですか。
藤本 肉はクマにとって最大のごちそうなのでもともと好んで食べはするのですが、エゾシカを狙うクマが増えているという実感はありました。山の中で、クマがシカを埋めたり、食い散らかしたりした跡をよく見るようになったんです。ただ、それが牛に変わるというのは当初は想定していませんでした。
河﨑 昔の北海道の記録や、地域に伝わるお話などを読んでいると、各地でクマに家畜を襲われたという話が出てきますが、最近はそういうことも減っていましたよね。
藤本 昭和30年代、40年代の頃は、牛がクマに襲われるのは北海道では日常茶飯事だったんです。当時は、死んだ牛を農家の家の裏に埋めたりしていたので、その臭いをクマが嗅ぎつけてやって来て、居合わせた牛や人を襲ってしまうことはよくありました。今は死んだ牛の処理などをきちんとするので、そういうことは減っていたんです。