男性中心、年功序列など「従来のルール」の改革を
「話が長い」と揶揄されるくらい、女性理事はみなさん頑張って言うべきことを言ってきましたが、圧倒的に協会側との情報量が違うため、どうしても最終的な意思決定は、協会幹部に一任せざるを得ないことも多かったのです。
社会における女性比率の底上げをルール化することはもちろん重要ですが、こういった「マジョリティとマイノリティの情報格差」を改善すべく真剣に取り組まない限り、いくら数字だけの女性登用を推し進めても、決して本質的な問題解決にはならないでしょう。
何度かお話ししたように、スポーツ庁は競技団体の女性理事の割合を40%以上とするガバナンスコードをつくり、男女のギャップ解消に取り組もうとしています。ラグビー協会もその方針に沿って女性理事を増やし、私が理事を外れた2021年6月の役員改選で女性理事を25人中10人にし、女性比率を40%まで引き上げました。
しかし、そこで選ばれた女性理事が、協会を引っ張っていけるかと言えば、それほど簡単ではありません。男女の「数」だけではなく、「機会」そして「情報量」を均等にすること、「サポート体制」と「心理的安全性」が確保されることがなにより大事だと思います。
「心理的安全性」とは、「組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態」のことを指します。近年、「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」という研究結果が発表されたことから注目されている概念で、この概念を掘り下げた書籍『恐れのない組織』(エイミー・C・エドモンドソン著・英治出版)はベストセラーになっています。
権力をもった男性が中心となってルールをつくり、招き入れた女性たちに「俺たちのルールに従え」と強要するだけでは、未来は拓けません。それは私のラグビー協会での2年間を見ても明らかです。
アリバイ的に女性を多く登用しても、男性中心、年功序列など「従来のルール」に手をつけなければ結果的になにも変わらなくなってしまう。組織の意思決定者が考えるべきは、これまで当たり前のように固定化されてきた「おっさんの掟」を意識的に改革していくことなのです。