NHKの「説明不足」と「事なかれ」意識
こう書くと「NHKは堕落した」「今の連中はわかっていない」という声が上がるだろう。だが私はそうは思わない。31年間、NHKの報道現場を経験した者として、様々な現場、優れた担当者に出会ったが、こういう“空虚”な人も昔からいた。そしてそんな“空虚”をなあなあで見過ごしてしまうダメ上司も昔から一定数いたから、とんでもない番組やニュースが画面に出て大問題をひき起こしたことも昔からあった。でも、だからと言って「このままで仕方ないさ」と開き直るわけにはいかない。今回の問題で一番NHKが反省すべきは「説明不足」だ。内部調査の報告書について「なるほど」と納得した方はほとんどいないと思う。私自身、内部の管理職説明会の様子を知るまではそうだった。では何が欠けているのか?
そこで思い出すのが財務省の公文書改ざん事件。問題発覚後、財務省は内部調査を進め、3カ月後に調査報告書を公表した。政府は「これで調査は尽くした」としているが、それで「なるほど」と納得できない方が大勢いる。中でも改ざん事件で夫を亡くした赤木雅子さんが納得していない。なにしろ夫の赤木俊夫さんが亡くなったこと自体、まるで書いてないのだから。再調査を求めているが政府は一向に応じる構えがなく、不信感だけが募っていく。
NHKの報告書は財務省よりはマシのようだが、肝心のことが伝わらないという意味では同じだ。何とか事を小さく見せて終わらせたいという「事なかれ」意識が共通している。その象徴が前田晃伸会長の国会答弁、「意図的にやるなら、もっとちゃんとやる」に表れ、責任を制作現場の大阪に押し付け東京は「我関せず」というそぶりにも見えている。何とか皆さんに納得してもらおうという真剣さに欠けているのである。
もう一つ、別の視点から問題を指摘するNHK内部の関係者もいる。
「たとえば、河瀬監督たちが反五輪の人々に悪意を抱く中で、あの男性への“仕込み取材”が生まれた可能性もある。それなのに河瀬監督たちから事情を聴かないまま幕引きを図るのは、真実を明らかにするつもりがないことを示しています」
NHKは放送局だ。視聴者に納得してもらうための特別番組を制作すべきだ。その中で原因が“空虚さ”にあったこと、問題への河瀬直美監督たちの関わりの有無を明確にし、再発を防ぐための方策を示す。そして発覚当初の対応で視聴者の皆さまに丁寧に説明してこなかったことを、トップの前田会長自ら真摯に謝罪する。それが筋道だろう。
岸田内閣の得意文句は「丁寧に説明」「真摯に対応」だが実践していない。NHKにはぜひ丁寧な説明を実践してもらいたい。NHKを愛する元職員としての、真摯なお願いである。