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初音ミク誕生から10年 “生みの親”が語る「狭く売るビジネスモデル」

クリプトン・フューチャー・メディア代表 伊藤博之さんインタビュー#1

発売半年にして1000本売れればいい世界で、3万本売れた

――それが初音ミクの前段階である「MEIKO」というソフトなんですね。

伊藤 2004年に発売しました。最初は「バーチャル・シンガー2004 プロフェッショナルエディション」みたいな名前にしようかと思ったんですが、なんか売れる気がしなくて(笑)。それで、せっかく人間の声のソフトなんだから、人の名前にしたほうがいいかなと考えて、声を担当してもらったシンガーソングライター・拝郷メイコさんのお名前を拝借したんです。で、社員に漫画描けるやつがいたんで、キャラクターを描いてもらって。

MEIKO

――パッケージをアニメキャラっぽくしたのは、何か狙いがあったんですか?

伊藤 親近感やわかりやすさを表に出して「音楽やってみようかな」って層に訴えたかったからです。というのは、プロ・アマ含めてミュージシャンとして活動している人って日本にはだいたい50万人くらいなんですよ。1億2000万人いるうちの50万人って、規模が小さいですよね。だったら、残り1億1950万人の「音楽これから層」に訴えたほうが「なんかコンピューターで簡単に音楽作れるらしい。ボーカルに自由に歌わせられるらしい」と面白がってくれる可能性もあるし、魅力的に思えたんです。

――MEIKOはどれくらい売れたんですか?

伊藤 国内だけで3000本くらいです。こういう製品ってワールドワイドで売れても1000本売れればいい方なので、成功と言えば成功でした。

――であるならば、初音ミクが発売半年で3万本売れたというのは驚異的ですね。

伊藤 サブカルに詳しい社員に指導なんかも受けて、アニメで活躍する声優さんを起用した可愛らしい声も功を奏しました。

 

「ダメ」って制限しては、ネットで生まれる可能性の本質を見失う

――この「初音ミク」というキャラ自体は、いわば「オープンソース」で、誰もが二次創作していいものとして開放され、それが現在に至る爆発的な認知度につながるわけですよね。でも当初はキャラクターを無断で使わせないようにするとか、そういう考えはなかったんですか?

伊藤 ありませんでした。というのは、初音ミクというキャラクターはボーカロイドソフトウエアを使って楽曲を作れば必然的に使われるもの。ミクがいろんなバリエーションでイラスト作品や、コスプレや、アニメーションといった「二次創作」になっていくことは、ソフトウェアとしての「初音ミク」の認知がどんどん広がっていくことになりますから、こちらが制限をかける必要はありません。ミクを好きになってくれた人たちによる自然発生的な広がりであって、こちらがコストをかけているわけでもなく、何のデメリットもないんですから。そこは「ポケモン」のように、キャラクター自身が商品になっていて、アニメやおもちゃといったものに「複製」されることでマネタイズするビジネスとは根本的に違うんです。

figure. 作詞・作曲・編曲:sasakure.UK

――初音ミクというキャラクターが、音楽ファン以外にも支持されて、自然と二次創作コミュニティができて、想像を超えたプロモーションになっていったんですね。

伊藤 むしろ二次創作を推奨する方向に舵を切って、初音ミクを用いた作品づくりがしやすい環境をどうやって作るかを考えたんです。そのための一つとして、ボーカロイドで作った音楽や二次創作イラストを投稿する場所「ピアプロ」(http://piapro.jp/)をオンライン上に設置して、誰もがシェアできるように整備したりしました。ネットは本来、ことごとくコピーされる文化なので、それを「ダメ」って制限しても何も始まらないし、むしろネットで生まれる可能性の本質を見失うと思っています。