昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

初音ミク誕生から10年 “生みの親”が語る「狭く売るビジネスモデル」

クリプトン・フューチャー・メディア代表 伊藤博之さんインタビュー#1

いかに気持ちよくコピーしてシェアしてもらうか

――初音ミクは国境も越えて、中国でもすごい人気ですし、国際的なアイドルになっています。こうした爆発的な広がり方は、当初から期待してたところはあるんですか?

伊藤 いや、正直そんなになかったです。あくまで日本語で歌うソフトウェアですし、日本でニーズはあっても、海外で受容されることはさほどないだろうと思っていましたから。

――では、どうしてこんなに海外でも人気になったんでしょう。

伊藤 やっぱり動画共有サイトですよね。PPAPがあんな風にヒットしたように、ネットに国境はありませんから。

中国語版は「初音未来」

――言葉の壁も超えちゃうものなんですか。

伊藤 ファンサブっていうのがありまして、映画とか漫画とか、ファンが勝手に自国の言葉に翻訳しちゃうって文化があるんですよ。動画も同じで、勝手に字幕が乗っかった状態でアップされると、日本語が分からなくても面白がれるので、そこからSNSで拡散されてどんどんシェアされるようになる。二次創作も広がっていく。それは著作権侵害だって言ってしまえばそうなんですけど、さっきも言ったようにネットはコピーされる宿命を背負っているわけで、そこから逆算したビジネスモデルを考えないと本質を見失ってしまうと思います。

「狭く売る」というビジネスモデル

――先日AbemaTVで放送された元SMAP3人の番組では、キャプチャ画像をSNSで公開していいよ、拡散していいよってやっていました。まさにコピーを制限しない、むしろ推奨する文化という気がしましたが……。

伊藤 ネットから隔絶してオフライン上でやっていくことにこだわる考え方が今でも存在するのは、ある意味で日本のマーケットがそれでも成立する構造になっているからだと思います。ただ、世界がネットでつながる時代になっている今、そういう鎖国思考にこだわっていると恩恵に預かれないものも大きいんじゃないかという気がします。だからこそ、いかに気持ちよくコピーしてシェアしてもらい、その上で成立するビジネスを考えた方がいいと思っています。

 

――本とかCDとか、コピーされること前提の時代になって市場が縮小している分野がたくさんあります。伊藤さんは、そうした縮小分野に可能性が残されているとすればどんな方向だと思いますか?

伊藤 コピーできない「体験」をマネタイズの手段にしていくことでしょうか。音楽産業はCDが売れないという前提に立って、ライブやイベントでどう収益構造を作るか考えていますよね。それって、従来のように、いかにアーティストがメディアでバーンと露出して、CD屋さんで面出し大展開したかによって売り上げが決まるみたいな「広く売る」世界じゃないんですよ。むしろ「狭く売る」ことが重要だと思います。

――「狭く売る」ですか。

伊藤 コアなファンに対してイベントを打つとか、限定商品を売るとか。コアなお客さんであればあるほど、オンライン上でコピーできない貴重な体験や限定されたものに価値を見出して、お金を支払ってくれるものだと思います。だからこそ、ネット発のクリエイターがテレビに大々的に露出しなくても大人気になれる時代ですし、大きな事務所に所属していなくても面白いことができる可能性がある。