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プーチン氏は何を脅威と感じているのか

 2014年3月、ロシアはウクライナのクリミア半島へ侵攻し、違法な住民投票によって、クリミア自治共和国とセヴァストーポリ特別市を「併合」した。ストーン監督は、セヴァストーポリには侵攻前からロシアの黒海艦隊が駐留していたことを踏まえ、「もしアメリカやNATOの軍がこの基地の支配権を得たら、どのような影響があるか」と尋ねる。

「きわめて重大な影響があっただろう。この基地自体にたいした重要性はない。まったく重要性はない。しかし彼らがそこにABMシステム(注:弾道弾迎撃ミサイルシステムのこと)あるいは攻撃用システムを配備していたら、ヨーロッパ全体の状況を一段と悪化させたことは間違いない。ちなみに、それこそ今、東欧で起きていることだ」

 ここから、プーチン氏の語りは、NATOに対する疑念に及んでいく。

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「われわれはNATOという組織の存在意義……正確に言えば存在意義がないという事実、そしてその脅威をよく理解している。この組織にまとまりがなく、存続性のないこともわかっている。北大西洋条約第5条に何と書かれていようと、それは変わらない。われわれが懸念しているのは、その意思決定のあり方だ。私はNATOでどのように意思決定が行われているか知っている」

プーチン大統領はNATOについての疑念を露わにする ©文藝春秋

「ある国がNATOに加盟すると、二国間交渉が行われる。二国間ベースであれば、どんな話も比較的簡単にまとまる。わが国の安全保障を脅かすような兵器システムも含めてだ。ある国がNATO加盟国になれば、アメリカほどの影響力のある国の圧力に抗うのは難しく、その国に突如としてあらゆる兵器システムが配備される可能性がある。ABMシステム、新たな軍事基地、必要があれば新たな攻撃用システムだって配備されるかもしれない」

「そうなったら、こちらはどうすればいいのか? 対抗措置を取らざるをえない。それはわれわれから見て新たな脅威となりつつある施設に対して、ミサイルシステムの照準を合わせるということだ。そうすれば状況は一段と緊迫化する。誰が、どんな理由でそのような事態を望むというのか」

 最後に、ストーン監督が「あなたは近い将来ウクライナをめぐって戦争をする気があるのか」と尋ねるシーンを紹介する。プーチン氏の答えはこうだ。

「それは最悪のシナリオだと思う」

 今起きていることは、過去にプーチン氏自身が述べた「最悪のシナリオ」ではないのだろうか。ロシアによるウクライナ侵攻は今日も続いている。

オリバー・ストーン オン プーチン

Stone,Oliver ,ストーン,オリバー ,奈美, 土方

文藝春秋

2018年1月12日 発売