ウクライナ政権への諜報テクニックは?
コンプロマート工作の対象はロシア人だけでなく、当然外国人も狙われた。2009年に在モスクワ米国大使館に勤務していた外交官のカイル・ハッチャーは、ロシア人売春婦と戯れている場面を盗撮され、インターネットにその動画をアップロードされた。
ロシアのコンプロマート工作はその後、最新のデジタル技術を駆使し、益々洗練されたものに進化している。ウクライナで当時のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ政権による欧州連合(EU)協定の調印棚上げに抗議する「マイダン(広場)・デモ」が起きていた14年2月、YouTubeに「マイダンの操り人形」という動画がアップロードされた。
その動画は当時のヴィクトリア・ヌーランド米国務次官補(欧州・ユーラシア担当)とジェフ・パイアット駐ウクライナ米大使の国際電話の音声だった。ヌーランドの「FucktheEU!(EUなんて、くそくらえ!)」という、政府高官としての人格を疑うような暴言が録音されていた。ヌーランドはウクライナの親欧米派を支援していたとされ、クレムリンから目の敵にされていた。米政府は、ロシアが会話を盗聴したとしている。
しかし、ヌーランドの事件は大きな問題になることはなく、当の本人は17年まで職を全うした。新時代のコンプロマート工作の脅威は忘れられ、教訓として生かされることはなかった。
サンダース弱体化工作を暴露
民主党全国大会を直前に控えた16年7月22日、ウィキリークスが、DNC(編集部注:米民主党全国委員会)のサーバーから盗まれた約2万通ものメールを公開した。公開されたメールはまさしくコンプロマートの宝庫であった。
特に注目を浴びたのは、DNC内におけるクリントンとサンダース上院議員、両陣営間の熾烈な権力闘争の赤裸々な実態だった。民主党の予備選は歴史的な大接戦だった。バーモント州選出のサンダース上院議員は、自らを「民主社会主義者」と名乗り、カリスマ的な選挙運動とトランプ同様のエスタブリッシュメント批判で支持者を熱狂させていた。
党大会を前にした同月12日、サンダースはクリントン支持を表明したが、支持者たちはエスタブリッシュメントを代表するクリントンへの嫌悪感が強く、「クリントンには投票したくない」という者も多かった。本選を見据えたクリントンにはまさに、「内からの脅威」だった。
暴露されたメールは、DNCの内部矛盾を浮き彫りにした。あろうことか、クリントン派のDNCスタッフが中立性に反し、サンダースの弱体化に向けて工作していたのである。