例えば、公開討論における質問で、無神論者であるサンダースに対してわざと信仰に関する質問を投げかけ、ケンタッキー州などの宗教保守地域での支持下落を画策する謀議がなされていた。
ウィキリークス(編集部注:内部告発サイト)を通じたメール暴露は、党の責任問題に発展し、批判の矛先はデビー・ワッサーマン・シュルツDNC委員長に向けられた。サンダースはシュルツの委員長辞任を要求し、トランプもツイッターで「RIGGED(八百長だ)」と批判した。
シュルツはリークから2日後の24日、辞任を表明。翌日の民主党全国大会は委員長抜きで開催されるという異例の事態になった。非難の嵐に追い打ちをかけるように、今度はFBIがDNCへのハッキングに関し捜査を行っていたことを認めた。これにより、DNCの組織としての責任が益々問われることになった。
DNCを震撼させたコンプロマートの夏以降、「エスタブリッシュメント対その他」という大統領選の構図が加速した。エスタブリッシュメントを代表するクリントンは、この時点で既に危機に陥っていた。
射殺されたDNCスタッフ
ところで、ウィキリークスがDNC関連のメールを公開する約2週間前の7月10日未明、ワシントンのブルーミングデールという地区で27歳の青年セス・リッチが射殺された。
現地の警察はすぐに強盗殺人と結論付けて捜査を打ち切った。しかし、強盗殺人にもかかわらず、リッチのつけていた金のネックレス、財布、スマートフォン等の携帯品が物色された形跡がないなど、不可解な点がいくつもあった。
彼はDNCでデータ分析を担当するスタッフだったため、その不可解な死は、インターネット上で様々な臆測を呼んだ。事件の翌月、ウィキリークスのアサンジが、リッチがDNCメールの提供者ともとれる発言をし、論争に油を注いだ。
事件から1年後の17年7月、アサンジの発言を裏付けるような調査結果も登場した。「正気のインテリジェンス職員OB(VIPS)」という、かつてCIAやNSAで腕を鳴らしたインテリジェンスオフィサーの集団が、DNCメールの流出はハッキングではなく内部からのリークによるものだと発表したのだ。
VIPSは元NSA技術ディレクターでロシア専門家でもあるウィリアム・ビニーを筆頭とするサイバーセキュリティ専門家たちを集め、グシファー2・0(自称ルーマニア人のハッカー)がリークしたファイルのメタデータ解析にあたらせた。