次に、議会が狙われた。犠牲者は、民主党議員やスタッフだけでなく、ジョン・マケイン上院議員ら共和党の人間も含まれていた。彼らに共通する点は、全員がエスタブリッシュメント層に属していたことだ。
彼らが狙われた理由は、主要メディアが取り上げない癒着関係などを暴露するためだったとみられる。特に、ワシントンにおけるロビイング活動は「合法的賄賂」と言われている。マケインのような著名な議員は、ほぼ必ず様々な方面と不透明な関係を持っている、と考えられている。
議会も狙われた事実は、重要な意義を持っていた。議会における議論はマケインのような第二次世界大戦以前に生まれた高齢世代がいまだ牛耳っており、サイバーセキュリティに関する脅威に対する認識は甚だ遅れていた。DCリークスによるコンプロマート工作により、マケインもロシアに対して復讐を誓うなど、議会でもサイバーセキュリティに関する議論が活発に行われるきっかけとなった。
ロシアから敵視されていた投資家も標的
最後に狙われたのは、政界の黒幕と呼ばれるような人々であった。「イングランド銀行を潰した男」という異名を持つ伝説の投資家ジョージ・ソロスは、クリントン候補の支援者でもあり、DCリークスの格好の標的となった。
第二次世界大戦前のハンガリーのユダヤ人家庭に生まれたソロスは、ナチスのホロコーストとソ連の恐怖政治を生き延びた。このような特殊な経験により、ソロスは自由民主主義の重要性を痛感し、オーストリア出身の哲学者カール・ポッパーの思想に共鳴した。後に金融の道へ進んだものの、常に哲学者としての野望を持っていた。
個人資産277億ドルを持つソロスは、慈善事業を通じ、積極的に政治活動を展開した。彼は、ポッパーの著作名『開かれた社会とその敵』から借用したオープン・ソサエティ財団を設立。反ソ活動を展開するなど自由民主主義の拡大を目的とし、独裁政治に対抗する政治運動を世界中で積極的に支援してきた。
このような背景から、ソロスは米国の外交政策の黒幕の1人と長らく見なされてきた。特に、04年に起こったウクライナでのオレンジ革命等、旧ソ連諸国で起こった一連のカラー革命といわれる政変には、直接支援をしていたと見る向きも多く、ロシアからも敵視されていた。
DCリークスは、ソロスにまつわるこうした疑惑を裏付けるようなコンプロマート工作を実行した。なかでも16年8月11日に公開されたメールは衝撃的だった。