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 ソロスは11年に国務長官を務めていたヒラリー・クリントンに、同年に起きたアルバニア政変に対して米国が介入するよう「指示」するような文言のメールを送っていた。また、ソロス自身が、首都ティラナにある自らの財団の現地支部が、米政府に対し、独自の分析に基づいた情報提供をする用意があるとも言及していた。

 DCリークスはさらに、ソロスの財団の内部資料を公開した。特に注目を集めたのは、14年のウクライナ危機以降ロシアとつながるヨーロッパの民族主義者が台頭したことへの対抗策を詳細に記した企画書だった。

 ソロスの財団が世界中の民主化運動に資金提供をしていることを認めただけでなく、いかに戦略的にヨーロッパの反露勢力に、その資金を提供できるかに言及していたからだ。これらの資料は、民主的な手続きを経ていないソロスの財団が、米政府の外交戦略の立案や遂行において、非公式に重要な役割を担っている可能性を示唆していた。

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伝説の投資家ジョージ・ソロスの政治への影響力

 ソロスの莫大な資産を背景にした政治への影響力の行使は、外交だけにとどまらなかった。警察と黒人の対立を克服するため、オバマ政権が14年に打ち出した警察改革をめぐっても、州警察の制度を廃止し、連邦警察の樹立とそれを実現するための全米規模の社会運動を実施する必要性を強調していた。

オバマ氏 ©JMPA

 そのために、警官による黒人射殺事件を「利用し」、BLMなどの黒人公民権運動に対する支援をするべきだとも提言していた。ここで注目されるのは、ソロスはBLMのみならず、アンティファ(アンチ・ファシストの意)のような暴力行使も顧みない過激派まで支援していたことである。

 ソロス関連のコンプロマートは、それまで陰謀論と一蹴されていたオバマ政権とリベラルなエスタブリッシュメント層との不透明な関係を暴露し、反エスタブリッシュメント運動の起爆剤となった。トランプやサンダースの一部の支持者たちの間に、クリントンに近いエスタブリッシュメントが、不公正な形で権力の一部を握っていたという印象が広がったのである。

 特に、米国南部を中心に影響力を持つ保守系憲法主義者やオルタナ右翼らにとっては、クリントンを非難する格好の材料になり、多くの保守系有権者の間で「ヒラリーはソロスの傀儡」と唱えられるようになった。

 米国の安全保障問題に関して「元老」として長く影響力を及ぼしてきたコリン・パウエル元国務長官も、DCリークスの標的になった。パウエルの私用メールは、エスタブリッシュメント層内部の微妙な政治力学を暴露した。

 米陸軍で輝かしいキャリアを積み、レーガン政権の国家安全保障担当補佐官、父ブッシュ政権とクリントン政権の統合参謀本部議長、子ブッシュ政権の国務長官など、政治に左右されない模範的な軍人として安全保障問題に関わってきたパウエルは、ネオコンと呼ばれる新保守主義者嫌いで知られていた。

 イラク侵攻前夜の02年には、ディック・チェイニー副大統領らのネオコンを「fuckingcrazies(最高にイカレた奴ら)」と批判していたとされる。好戦的なネオコンに対し、パウエルは外交問題では現実主義者と考えられ、「パウエル・ドクトリン」などに見られるように軍事介入には一貫して慎重論をとっていた。