日本人は、世界でも海藻の摂取頻度が高いことで知られています。海藻はミネラルの宝庫で、健康志向のメニューにも利用される機会が多い食材ですが、過剰に摂取することで、甲状腺がんのリスクを高めるという報告があるのです。

 海藻にはヨウ素が豊富に含まれています。ヨウ素は甲状腺ホルモンの主要成分であり、生命維持に欠かせない重要素材です。  

 一方、甲状腺がんは男性より女性に多いことで知られています。その割合は男性1に対して女性が3。また、組織の型により次のように4つに分類されます。  

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 まず、甲状腺がんの中で一番多いのが「乳頭がん」。これは病気の進行が遅い上、早期治療ができればほぼ確実に治すことが可能。ただ、予防するに越したことはありません。この乳頭がんと、やはり治療経過の比較的良好な「濾胞(ろほう)がん」を「分化がん」と呼び、甲状腺がん全体の約9割を占めます。これに、日本人には少ない「髄様(ずいよう)がん」、頻度は低いものの非常に悪性度の高い「未分化がん」を加えた四つを総称して「甲状腺がん」と呼んでいます。  

 女性に多いがんということもあり、日本での多目的コホート研究は、女性を対象に分析が行われました。  

 1990年と1993年に日本各地の40~69歳の女性5万人にアンケートを実施し、2007年まで追跡調査をしました。この間に134人が甲状腺がんになり、うち84パーセントにあたる113人が乳頭がんと診断されています。  

 調査対象の海藻の摂取状況を「週2日以下」「週3~4日」「ほとんど毎日」の3群に分けて解析したところ、海藻を食べる頻度が高いほど甲状腺がんになる確率が高く、乳頭がんに限定すると、ほぼ毎日食べるグループは、週2日以下のグループの約1.7倍という高確率でがんになっていることが分かったのです。  

 一方、甲状腺がんにはエストロゲン(女性ホルモン)が関与することが指摘されています。そこで調査では、対象の女性を閉経の前後に分けての検証も行いました。すると閉経前の女性では海藻摂取量と甲状腺がん発生に関連はなかったものの、閉経後の女性では、海藻摂取量が多いほど甲状腺がんのリスクが高いことが分かったのです。  

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 これには次のような理由が考えられます。ヨウ素には甲状腺がんのリスクを高める作用がある一方、海藻にはエストロゲン濃度を下げる働きがあるという実験結果もあります。閉経前の女性はヨウ素による甲状腺がんリスクの上昇と、海藻がエストロゲン濃度を下げる働きによるリスクの低下が打ち消しあった可能性が考えられます。一方、閉経後はエストロゲン濃度が低いため、ヨウ素による発がんリスクのみが作用した――という考えです。  

 これは仮説で、証明は今後の研究をまたなければなりませんが、いずれにしても、閉経後は閉経前にもまして海藻の摂り過ぎには注意すべきかもしれません。  

 ただし、「海藻をまったく食べない」という考えは早計です。なぜなら4つの甲状腺がんのうち濾胞がんは、ヨウ素が欠乏することでリスクが高まるという報告があるからです。  

 摂り過ぎても、不足しても甲状腺がんのリスクになる海藻。結局は「適度に食べる」ということに尽きます。