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 確かに、ウクライナ危機においては欧米西側世界の主役はアメリカでも英国でもフランスでもなく、まして強い遠心力にさらされている欧州連合(EU)でもなく、ドイツが采配を握った。

 「21世紀最大級の危機」とも位置付けられたウクライナ問題という巨大な挑戦に対し、戦後はフランスやアメリカの陰に隠れて外交・安全保障でリーダーシップを発揮したことのないドイツが前面に出てきたことは一時代を画す出来事と言ってよかった。

 ウクライナ危機をめぐっては、ロシアとウクライナ、ドイツとフランスの4カ国の枠組みで和平が模索されるという、アメリカが直接加わらない形になっている。

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 欧州問題に対するオバマ政権の「距離感」を物語るが、しかし、アメリカは今、ドイツを「代理人」として活用することで満足している。メルケルとオバマは頻繁に連絡を取り合って緊密な政策調整を続け、米欧の歩調を整えることに神経を使っているようだ。

「経済的には巨人だが国際政治の舞台では小人」 

 そう揶揄されたかつてのドイツの姿はほとんど消え、ドイツには重い責務が課せられるようになった。だが、そうした新たな生き方を、ドイツは喜んで受け入れているわけではない。

ドイツとロシア双方を呪う宿命の地ウクライナ

 対ロシア外交で、ドイツが西側の「幹事」となることのリスクもある。第二次世界大戦時の罪の意識が、メルケルのドイツを必要以上にロシアに対して宥和的にする。

 ロシアは、機械をはじめとするドイツ産業の輸出市場であり、何1000社ものドイツ企業が進出している。ドイツの天然ガス・エネルギーはロシアに依存しており、その経済的結びつきが対ロシア制裁に当たって目立ったドイツの弱腰の要因となっている。だが、ドイツの歴史に対する負い目も宥和姿勢の背景にあることを忘れてはいけない。

 しかも、危機の舞台は、ドイツとロシア双方を呪う宿命の地ウクライナなのである。

この写真はイメージです ©iStock.com

 暴力的な東西の巨人によって収奪され、筆舌に尽くしがたい苦しみを与えられてきたのがウクライナの現代史であり、21世紀のEU・NATO拡大と、その東進に死に物狂いで対抗するロシアという、せめぎ合う東西のプレートがエネルギーを溜め込んでついに弾け、いわば地政学的な巨大地震を引き起こしたのが今のウクライナ危機だった。メルケルもそのことを念頭に行動せざるを得ない。