連日、新型コロナウイルスの国内新規感染者数が万単位で発表され、もはやコロナとの共存が「日常」となりつつある。
いっぽうで医療現場は今も逼迫が続いている。病床の数や輸血用の血液は慢性的に不足し、コロナ以外の病の発見・治療の遅れも指摘されている。毎日のように救える命が失われているのだ。コロナ対策に予算や人員を割かれることで、治療薬の研究・治験も遅れている。それが医療現場の現状でもある。
そんな先の見えない医療状況の中、「文春オンライン」取材班は3月3日、白血病と戦うある5歳の少女に出会った。
兄が心配そうに妹を見つめ…
栃木県内の郊外にある、のどかな住宅地。
緑に囲まれた一軒家で、少女は懸命に病気と戦っていた。少女の名前は大田和瑠璃ちゃん。昨年末に5歳の誕生日を迎えた。母親の涼子さんが語る。
「そういえば今日は雛祭りでしたね。毎日が忙しすぎて、全然気づかなかった。じゃあ、今からお雛様を出して、しばらく出しっぱなしにしとこうかな。(3日以降もお雛様を出しておくことで)お嫁に行けないってことは、まだまだ生きてくれるってことですし……」
この日、瑠璃ちゃんは紫外線対策のため帽子をかぶり、庭に設置したテント内で遊んでいた。手にはお気に入りのディズニー作品である『アナと雪の女王』のエルサの人形を握り締めていた。脇からは7歳の兄が心配そうに妹を見つめ、無邪気な2歳の弟はお行儀よく座っている。2人とも瑠璃ちゃんのことが大好きだ。
「実は6日の月曜日から、入院して投薬治療にはいるんです。コロナの関係で病院には私と夫しか面会にはいけません。兄弟はしばらく会えないから寂しい思いをさせちゃうな。
これまで投薬治療や移植手術を試みてきたのですが、うまくいきませんでした。本当は最近注目されている、新しい療法にもトライしたいんです。でも、幼児にはまだ治験の許可もおりていなくて…。大人の治験者が出て、幼児でもその療法が受けられるようになるまで、なんとか娘と一緒に頑張りたいんです」(同前)
白血病が分かってから2年半が経った。主治医が涼子さんに告げた瑠璃ちゃんの余命は、あとわずか1ヶ月に迫っている。だが、母の目は決して諦めていなかった。