治験がはじまるまで、くらいつく
「CAR-T細胞療法」の研究を手掛ける信州大学教授の中沢洋三氏が解説する。
「CAR-T療法は患者自身の免疫細胞である“T細胞”を利用した遺伝子治療です。患者さん自身のリンパ球が持つ免疫力ががん細胞に突破されていても、その遺伝子を体外で人工的に組み替えて、がん細胞に対する武器となるタンパク質=CARを導入します。急性リンパ性白血病のケースでは、移植治療で何度も再発を繰り返し、もう普通では治らないような人に投与しても、寛解率だけで言えば9割ぐらい。そのうち50~60%の人が再発していません。
昨年には多発性骨髄腫に対する薬も日本で1つ承認され、2つ目も今年承認される見込みです。なので、これからの研究開発としては、残っている急性骨髄性白血病をどうにかしたい。私たちがオリジナルで開発したCAR-Tを使った治験が日本では初めての臨床試験で、それが昨年の3月にスタートしたところです。ただ、まずは成人の治験を先にやらなければいけないルールがあるので、それが終わるまでお子さんには取りかかれないんです」
昨年12月、涼子さんは医師から「瑠璃ちゃんの余命はもって4カ月」と宣告された。取材に訪れた3月3日の時点で、余命は1ヶ月に迫っていた。
主治医からは、自宅に帰って家族との大切な時間を過ごすことを勧められた。だが、家族は諦めなかった。涼子さんが言う。
「瑠璃の血液の数値はいまも悪く、6日からは最後の抗がん剤治療にはいります。ゲーゲーと吐いて、下痢も続いてお尻も腫れている。それでも瑠璃は『ママ、瑠璃ちゃん頑張って病気を治す』って……。娘が頑張っているのに、私が諦めるなんて言えません。
東北の病院で知り合った急性リンパ性白血病だった同世代のお友達は、CAR-T細胞療法で寛解し、いまも再発せず元気にしている。うちも幼児への治験がはじまるまで、なんとかくらいつきたいです」
視界の先にわずかに見える光を糧に、家族はいまも戦い続けている。瑠璃ちゃんと家族の願いが届くことを祈りたい。
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日本骨髄バンク公式サイトはこちら→https://www.jmdp.or.jp/
※3月12日14時15分、瑠璃ちゃんは息を引き取った。記事を配信した3時間後のことだった。
涼子さんは記者の取材に「娘は最期まで闘っていました。瑠璃のことを応援してくださったかた、温かい言葉をかけてくださったかた、皆さまに感謝しております」とこたえた。
瑠璃ちゃんのご冥福をお祈りいたします。
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