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2022/04/01

genre : ニュース, 社会

「A氏が、安楽寺の財産を本山に断りもなく処分したことは事実です。1月から宗務庁による事情聴取が始まり、3月に入って正式に“事件化”し、天台宗における裁判、『審判』が始まりました。その審判の結果、A氏は7月25日付で擯斥処分を受けたのです」

 ところが、審判が始まり、擯斥処分は免れないと悟ったA氏は3月5日、前述の、熱海の美術館を運営する千代田区の財団に、仏像2体を売却するのだ。つまりは売り抜けたわけである。

「A氏は当初、2体の仏像を、中国に売ろうとしていたようですが、その目論見もコロナ禍で潰えた。そこで、処分を受け、安楽寺から放逐される前に、仏像を現金に換えてしまおうと思ったのでしょう。熱海の美術館に『2億3000万円』で売却したと聞きました。(売却益は)自分の借金の返済に充てたようです」(前出・宗務所長)

 私は熱海の美術館を通じ、千代田区の財団に取材を申し込んだが、拒否された。

「天台宗にとって前代未聞の大事件」

 実は天台宗務庁は、A氏と同時期に、同じく品川区にある「観音寺」の住職で、A氏の僧侶の後輩でもあるC氏を事情聴取している。A氏はC氏を土地取引に巻き込んでおり、C氏もまた本山に無断で観音寺の不動産を処分し、莫大な負債を抱え込むことになっていたのだ。さらにA氏は、すでに負債を抱えていたC氏から「仏像が売れたら返すからと、1億1500万円もの金を借りていた」(前出・天台宗関係者)という。

 観音寺は、都内の天台宗の寺院の中でも、有数の資産を持つ寺として知られていたが、最終的には他の寺から3億円の借金をするなど、首が回らなくなっていたというのだ。

 天台宗務庁による審判の結果、A氏に巻き込まれた観音寺住職のC氏も21年9月27日付で擯斥処分を受け、天台宗僧侶の身分を剥奪された。が、その処分から6日後の10月3日の未明、C氏は自ら命を絶っている。享年48という若さだった。

「僧侶の先輩で、日頃から世話になっていたA氏から誘われるままに不動産取引にのめり込み、気がつけば、自分ではどうしようもない額にまで負債が膨れ上がっていた。なんとか寺の財政を立て直そうと悩み、もがいた末に、自死を選んだのでしょう。彼はもちろん、残された家族が不憫でなりません」(前出・宗務所長)

熱海の美術館に売却された「木造千手観音立像」(左)と「木造阿弥陀如来立像」(右) ©西岡研介

 安楽寺と観音寺の法人登記によると、A、C両氏が擯斥処分を受けた後、ともに「小林祖承」という人物が「代表役員代務者」として就いている。

「小林さんは、天台宗の『参務』。天台宗の責任役員であり、天台宗全体の財産に責任を負っている方です。宗務庁での肩書きは『総務部長』。その小林さんが今回、(天台宗のトップである)宗務総長の命を受けた『特命代務』として、両寺の代表役員代務者に送り込まれた。このことからも分かるように、今回、A氏が起こした問題は、被害額の大きさや、その内容からみて、天台宗にとって前代未聞の大事件であることは間違いありません」(同前)

売買の手続きに問題はなかったか?

 繰り返しになるが、安楽寺は天台宗の「被包括法人」だ。被包括法人が寺の財産を処分する場合、「包括法人」である天台宗の承認を得なければならない。ならば、A氏が、これら2体の仏像を売却する際には、天台宗本山の承認が必要だったはずだ。

 ところが、天台宗に確認すると、「承認するはずがない」(同前)という。となると、この売買は、法的に問題はないのか。#2に続き、本間弁護士に聞いた。

「確かに、被包括法人が不動産や、財産目録に掲げる宝物を処分する際は、その宗派(包括法人)の代表役員の承認や、公告が必要とされ(宗教法人法23条)、これら正規の手続きを経ずに行われた譲渡(売買)は無効とされます(24条)。

 ただし、それは、あくまで〈財産目録に掲げる宝物〉が対象で、もし、安楽寺が仏像を財産目録に掲げないまま、売却していたとしたら、宗教法人法上、問題とはならないのです」

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