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 かつて、安楽寺の目の前には「別院五雲閣」という葬祭場があったが、そこには現在マンションが建っている。A氏はここも借金の担保に入れてしまい、そのカタに取られてしまったのだという。

「2体合わせて50億で売れる」

 住職にとって禁じ手である、寺の財産に手を付けていたA氏。そんなA氏のもとに、2体の仏像が持ち込まれたことから、彼の浪費は一気に加速し、負債も膨れ上がっていったという。

「安楽寺に仏像を持ち込んだのは、A氏の幼馴染で、檀家でもあった建設業者のB氏。誰がB氏に仏像を引き渡したのかは知りませんが、B氏が第三者から借金のカタに取り上げたと聞きました。

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 二人は初めから、仏像を売り払うつもりでした。ただ、一個人である『B氏の所有』より、『安楽寺の所有』としたほうが高く売れるだろうと踏んだ2人は、B氏からの寄進という形で、安楽寺の所有という体裁を整えたのです」(同前)

仏像の所有権を巡って裁判が行われた大津地裁 ©時事通信社

 A氏は「2体合わせて50億で売れる」と皮算用していたという。その売却益を見込んでさらに借金を重ね、「自分にはベントレー、息子にはジープを買い与え、60フィートのクルーザーに、ヨットハーバー近くのマンション、山中湖に別荘を購入する」(同前)など、次々と散財していった。

 一方で、仏像を譲って欲しいという申し出も何件かはあったようだが、二人があまりに高値をふっかけたため、なかなか売れず、A氏は逆に借金を重ねることになったようだ。

天台宗トップによる事情聴取

 そうした中で、安楽寺は18年、所有権の確認を求めた裁判で敗訴。だが、A氏にとってこの仏像は、膨れ上がった借金を返すための最後の切り札だった。簡単に諦めて、大岡寺に引き渡すわけにはいかない。大岡寺から“無償譲渡”を持ちかけられたのはそんな時で、A氏にとっては願ってもない申し出だっただろう。

 #2でも触れたが、大岡寺関係者によると、「一審で敗訴した後も、安楽寺が仏像を欲しがっていることに目をつけたXは、(大岡寺の)住職に無断で、安楽寺に仏像の譲渡を持ちかけた」という。このとき、表向きは〈無償譲渡〉としながら、実際は有償譲渡であり、安楽寺から大岡寺に約8500万円が支払われたとみられている(X氏は「もっと低い(金額)」と主張)。

 この金額は、重要文化財の仏像の“相場”からみて安い方だといえるが、既に借金で首が回らなくなっていたA氏が用意できる金額としては、これが限界だったのだろう。また同時に、A氏には「ここで8500万円を支払っても、もっと高い金額で仏像を売却できる」という確信があったからこそ、この取引に応じたはずだ。

 しかし、借金塗れとなった安楽寺の危機的な財政状況はほどなく、同寺を管轄する天台宗の「東京教区宗務所」を通じ、本山の耳に入り、天台宗の行政上のトップ、「天台宗務庁」は21年1月から、A氏の事情聴取を始めたという。

 天台宗東京教区宗務所の所長(同宗東京教区の総責任者)は、私の取材に対しこう答えた。