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敗戦必至の英国海軍が立ち上げた「秘密のチーム」 戦争という名の悲劇が作り出した“人生のチャンス”とは

麻木久仁子が『小鳥と狼のゲーム』(サイモン・パーキン 著)を読む

2022/03/24
『小鳥と狼のゲーム Uボートに勝利した海軍婦人部隊と秘密のゲーム』(サイモン・パーキン 著/野口百合子 訳)東京創元社

 1941年、ドイツ軍は無敵のUボートを駆使して、大西洋を航行する輸送船を次々と撃沈していた。食料や燃料の多くを輸入に頼るイギリスの海上輸送路を遮断して兵糧攻めにし、戦争継続を不能にしようというのである。英国海軍はどこからともなく現れては無差別に輸送船を撃沈していくUボートになすすべもなく、深刻な打撃を受けていた。

 追い詰められた英国海軍は敗戦必至の状況を打開するためにある秘密のチームを立ち上げる。任務はUボートの作戦行動の秘密を探ること、それに対する有効な新しい戦術を立案すること、そしてそれを大西洋を航行する全ての艦船の艦長に伝授することだ。チームを任されたのは病のため軍を去っていた退役中佐ギルバート・ロバーツ。任務遂行の方法は、なんと精緻な「ボードゲーム=図上演習(ウオーゲーム)」を作成し、そのゲームプレーを通じた訓練を海軍士官たちに施すというものだった。志半ばで挫折していた退役中佐ロバーツが再び使命を与えられ、任務に心血を注ぐ様は鬼気迫る。

 が、なんといっても胸躍るのは、このチームに招集された英国海軍婦人部隊の活躍だ。戦争という名の悲劇は、ある一面においては「人生のチャンス」を作り出す。それまで「良き娘、良き妻、良き母」であることしか許されなかった女性たちは、国家総動員体制のなかで、平時には望んでも得られなかった活躍の場を与えられる。ロバーツのチームでも、選抜された優秀な若い女性たちが、戦闘の最前線で戦ってきた歴戦の強者にも劣らない「戦術のプロ」として成長していくのだ。図上演習という名のシミュレーションを繰り返すことによって、今まで実行されてきた戦術の弱点を炙り出し、新たに有効な戦術を編み出す。その結果をもとに精緻に組み立てられたゲームシナリオをプレイすることで、士官たちはUボートとの有効な戦い方を身につけていく。若き婦人部隊員が歴戦の強者を図上演習で打ち破ってしまう場面などは実に痛快。「小娘に何がわかる」と侮っていた男たちは、彼女たちの能力の高さにシャッポを脱ぐしかないのだ!

 着々と能力を高め、使命感に燃え、自由に恋もする。しがらみから解き放たれた若き隊員たちの姿は生き生きとしている。一方で戦争がなければこんなふうに力を発揮することができなかったのだという事実には胸が痛む。やがてUボートはレーダーの開発や暗号の解読などにより一気にその力を失うが、その時まで、彼女たちは貴重な時間を稼ぎ、英国海軍を持ち堪えさせることに大いに貢献した。

 戦後、勝利の栄光は「男たちの物語」に収斂されてしまったが、今ようやく女性たちの物語に光が当たる。長い時間がかかったものである。残された資料が少ない中、丹念に掘り起こされたこの物語、胸が熱くなる読書体験となった。

Simon Parkin/ジャーナリスト。「ニューヨーカー」「ガーディアン」などで活躍したのち、2015年に『Death by Video Game』(未邦訳)、19年に本書を上梓。FPAメディアアワードの最終候補となる。他に、『The Island of Extraordinary Captives』(未邦訳)がある。
 

あさぎくにこ/1962年生まれ。タレント。書評サイト「HONZ」に寄稿。著書に『生命力を足すレシピ』など。国際薬膳師の資格も持つ。

小鳥と狼のゲーム: Uボートに勝利した海軍婦人部隊と秘密のゲーム

サイモン・パーキン ,野口 百合子

東京創元社

2022年1月27日 発売

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