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《不肖・宮嶋、キエフへ》「我々の勝利のあと好きなだけ酒を飲ませてやる」非常事態宣言下の深夜に見たウクライナ人の“臥薪嘗胆の覚悟”

《不肖・宮嶋、キエフへ》「我々の勝利のあと好きなだけ酒を飲ませてやる」非常事態宣言下の深夜に見たウクライナ人の“臥薪嘗胆の覚悟”

#7

2022/03/20
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誰に命令されるまでもなく戦っている

 検問時もワイロや見返りを要求する素振りもない。ワシの両側をはさむ二人も検問所は「われらの警備状況が丸わかりになるので、決して撮るな」と真剣に何度も釘をさす。それは今国に残る皆が勝利を信じてやまないからであろう。

 あの大国ロシアにまじで勝つつもりなのである。彼らはかつてイラクで見た、精鋭と誉高かった共和国防衛隊が声高に叫んだ「サダムのために血の一滴まで捧げる」やの北朝鮮のマスゲームのような「将軍サマの絶対的な指導に従い、敵の血で大地を染めてやる」やのこれ見よがしのスローガンをヒステリックに叫ぶわけでもない。

ヨーロッパ穀倉地帯に上る朝日。美しいというよりロシア機が怖い恐怖が勝る 撮影・宮嶋茂樹

 第一ゼレンスキー大統領は選挙で選ばれてるし、かれのために戦うなんていう奴なんか一人も見たことない。皆生まれ育ったこの国を、そして家族を守るために誰に命令されるまでもなく戦っているからであろう。

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非常事態宣言下、酒を飲まないのである。ウクライナ人は。

 ロシア語はもちろん英語も解すイゴールとは眠気覚ましの意もあり、話がはずむ。二人ともアルコールはいける口だが、今ウクライナ全土が非常事態宣言下、だ。我が国のコロナ禍のなんちゃって非常事態でなく、ここは市民が無慈悲に侵略者に毎日惨殺され続けるほんとの非常事態である。そんな非常事態宣言発令以来すべての商店やバーの棚から酒が消えた。ホテルのミニバーからもミニボトルまで一本残らず持ち去られたのである。

リビウのホテルのベッド

 そんな政府の横暴にウクライナ中の酒飲みが怒り狂ってるはずやと、思うとんちゃう? 日本のコロナ禍でも飲食店では酒の提供をやめたけど、酒屋やコンビニではどんどん売ってたから、ワシらうちでリモート飲み会やの心おきなくでけたやん。ましてや日本以上に酒飲みが多いウクライナのこっちゃ、もう暴動寸前と思いきや、飲まないのである、ウクライナ人は。レストランやホテルのバーでも、しれーとして、ウエイトレスやバーテンにこっそり「ウイスキー」とささやいても「禁止されてる」とけんもほろろである。イゴールとルスランも運転中もそんな日本とウクライナの酒談義で盛り上がった。

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