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《不肖・宮嶋、キエフへ》「地雷を埋めたに違いない」ロシア軍が攻めてきた時、この街は…日本人カメラマンが見た「戦場のリアル」

#8

2022/03/20

 不肖・宮嶋、最後の戦場取材へ――。

 数々のスクープ写真で知られる報道カメラマンの宮嶋茂樹さん(60)。これまでにイラク、北朝鮮、アフガニスタン、コソボなど海外取材を数多く経験し、あまたのスクープ写真を世に問うてきた。そんな不肖・宮嶋がロシアの軍事侵攻に揺れるウクライナへ。混乱する現地で見えてきた「戦争の真実」とは?

 西部の都市リビウから医療物資を運ぶフォード社製の大型車両に同乗させてもらい、不肖・宮嶋は首都キーウ(キエフ)へと向かう―ー。

(シリーズの8回目/前回を読む

「最後のペトロリアム(燃料)補給だ。」

 すでに22時の外出禁止令直前である。フォードは制限一杯の20リッターを給油した。見上げると上弦の月である。フォードがこの日の最後の客になったようである。スタンドの灯りが消え、さらに星が輝きだした。

「さっむ!」

「マイナス8度だ」

 明日も晴れるのであろう。放射冷却でよけい寒い。

前線が拡大すると、侵略軍が目をつけるのがインフラ破壊である。ガソリンスタンドとタンクローリーは真っ先に狙われる。しかし、地下のタンクは意外と深く爆発することは滅多にないという 撮影・宮嶋茂樹

これが女性やったら、ずいぶん違うんやが……

「いまのうちに食事にしよう」

 ヨーロッパではアイドリングしっぱなしで車内で暖をとる習慣はない。っていうより燃料節約のためであろう。どうせ寒いのならせっまいフォードの車内より外のほうが……あかん、外は。凍死してまう。再びむっさい男に挟まれその暖をもらう不肖・宮嶋であった。これが女性やったら、ずいぶん違うんやが……。

 両側から「家内からだ」とチーズハムサンドと魔法瓶から紙コップに注がれたコーヒーが差し出された。そうか、最初このフォードに入ったとき匂ったニンニクの匂いはこのサンドイッチのタマネギの匂いやったんや。

「クースナ(おいしい)」

「それはロシア語だ。ここ(ウクライナ語)じゃスマチネだ」

 涙がこぼれたのはタマネギのせいでも寒さのせいでもなかった。

リビウのホテルで出た食事。あの時も美味しかったが今回のサンドイッチに涙が出た 撮影・宮嶋茂樹

グーグルマップによると、げ! まだ半分も来てないがな

 すでに外出禁止時間を過ぎた。ほんまにこのルートで合ってるんやろかいな? 運転はいつのまにかルスランからイゴールに代わっていた。運転代わっても寝るまもないほど検問が続く。

 こんなときこそ文明の利器や。グーグルマップやんけ。おう! 現在地が丸わかりや! いまはまだ40号線か……。結構でかい町やがあいかわらず真っ暗である。

「リブネ……と読むのかな?」

「リブネだ。平時ならこの横は空港だ。ここまでは順調だが」

 グーグルマップによると、げ! まだ半分も来てないがな。