今までがラッキーすぎた。こんなにことが簡単に運ぶわけがない
「いや、持ってない」
そう答えるしかなかった。今までがラッキーすぎたのである。こんなにことが簡単に運ぶわけがない。特に戦時下は。
「よし、行こう」
「へ? もうええの?」
フォードは100メートルもせんうちにまた止まった。さっきとは迷彩服のガラが違うように見える、だけ、かな? 管轄が違うんやろか? それよりさっきの高級将校らしい奴、このまま済むんやろか?
「ナプラーヴァ、リーヴァ(右に、左に)」
なんや左右はロシア語と同じか、今度はルスランがしつこく道をきいている。
ジトーミルはかなり大きな集落に見えるが道幅はそんなに広くなく、舗装もところどころであるが、かといって穴がそこら中というほどでもない。道路両側には民家や商店、レストランにホテルと普通の町にふつうにある建物が並んでいるようなんやが、真っ暗なのである。人の気配が全くせんのである。検問所以外は。
その検問所が大げさやなく、大きな交差点ごとにあるのである。ゴーストタウンならボスニアでもゴラン高原でも見た。それらはがれきに埋まっていたが、ここはまだ空爆も砲撃も受けたようにも見えんのである。
また検問、今度は左に行ってまた道なりに左ってそれならもとにもどってまうやんけ。まるで目隠しされて迷路に迷い込んだみたい……「迷路」という言葉が思い浮かんで背筋が凍りついた。
きっと地雷を埋めたに違いない―ー。
異様にゆっくりなわけや。この暗さならむき出しの地雷も見えんわ
おそらくジトーミル規模の町は全町民の避難先が決まってるのであろう。いやすでに全町民避難済みかもしれん。軍人や民兵だけ残し、そしてロシア軍が攻めてきたら、すんなり町を明け渡すように見せかけ、バリケードを移動もしくは破壊して敵を地雷を埋設した通りに誘い込むつもりなのである。
ルスランが異様にゆっくりなわけや。この暗さならむき出しの地雷も見えんわ。長い……まだ町を出れない。グーグルマップでもおんなじとこをぐるぐる回ってるようにしか見えん。
1時間かかってやっと抜け出た。と思うたらまた次の集落の検問所だった。こんどは私服なのが分かった。イゴールが少し話し込んでいた。
「ここでしばらく足止めだ。朝5時半まで」
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