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《不肖・宮嶋、キエフへ》「地雷を埋めたに違いない」ロシア軍が攻めてきた時、この街は…日本人カメラマンが見た「戦場のリアル」

《不肖・宮嶋、キエフへ》「地雷を埋めたに違いない」ロシア軍が攻めてきた時、この街は…日本人カメラマンが見た「戦場のリアル」

#8

2022/03/20

 ところでこのスマフォ、現地の激安SIMカード25ギガ100フリヴナ(400円)分を2枚いれたけど十分かいな? なんやホテルではワイファイとやらを使っとったけど、こんなつなぎっぱなしやったらすぐなくなって、キーウ着いたらもう使えんなんてことにならへんやろか? いかんいかんこういう時こそ電池もデータ量も節約や。しかし昭和生まれのカメラマンがデータ量なるもんを気にするようになったのである。で? 電源切るのはどうするんやったっけ?

「軍の発行したアクレディテーションは持ってないのか?」

 暗闇にひときわ大規模な検問所、いや要塞や。ハザードランプの点滅のたびにトーチカまで浮かび上がった。しかも迷彩ネットで巧妙に隠されて、こりゃあ1個や2個やないで。そこらじゅうにあるわ。またスマフォのスイッチを入れ、グーグルマップとやらを開いてみる。「ジトーミル」とあった。キエフまでの40号線、最後の大きな町、に見える。グーグルマップ上は。

リビウにあったKGBに殺されたといわれるウラディミール・イヴァシュクの像 撮影・宮嶋茂樹

 まいどのように書類を手渡す。もうふところにしまう暇もないので膝のうえにおきっぱなしである。

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 しかしここの検問所はこれまでと違った。日本写真家協会のプレスカードに旅券、これまではこれで十分だった。が、「ウクライナ軍の発行したアクレディテーションは持ってないのか?」と聞かれたようだ。イゴールがフォードの陰に隠れてどうせ真っ暗でろくに見えんやろうが、おそらく正規軍の高官らしき声を淡々と冷静に訳す。

 が、内心はあせりまくっていた。ウクライナ軍か政府のアクレディテーション(認定された記者証)の噂はリビウに駐在する外国メディアの間でもたびたび話題に上っていた。それを持ってなかったばっかりにキエフに入る直前に追い返された、とか一時スパイ容疑をかけられたとかである。しかし、誰も現物を見た者がいないとか、その実態は杳として知られず、やれ内務省に届けるやの、提出しても引き取りはキエフやから、どっちにしろ一度取りに行かんといかんやろとかいう話だった。そのアクレディテーションの重要性はのちに嫌っというほど分かることになる。

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