不肖・宮嶋、最後の戦場取材へ――。
数々のスクープ写真で知られる報道カメラマンの宮嶋茂樹さん(60)。これまでにイラク、北朝鮮、アフガニスタン、コソボなど海外取材を数多く経験し、あまたのスクープ写真を世に問うてきた。そんな不肖・宮嶋がロシアの軍事侵攻に揺れるウクライナへ。混乱する現地で見えてきた「戦争の真実」とは?
西部の都市リビウから医療物資を運ぶフォード社製の大型車両に同乗させてもらい、不肖・宮嶋は首都キーウ(キエフ)へと向かう―ー。
(シリーズの9回目/前回を読む)
◆
時計はとっくに日付が変わるどころか4時を指していた。ここまでで10時間か。足止めの理由は答えずとも分かった。「ズンズン」という遠くで連続した爆発音が聞こえる。砲声を子守歌代わりなんて何年ぶりやろって、寝られる訳ない。
イゴールはシートの間に詰めていたリュックから薄い毛布を取り出すや、頭からすっぽりかぶった。ルスランはハンドルに頭を預けたままさっそくいびきをかきだした。暗闇に目が慣れてくるとフォードのまわりには2台の大型車が止まっていた。いつからおったのやろうか?
エンジンを切ったフォードの車内はすぐに凍てつきはじめた。22時前でマイナス8度やろ、一日で一番寒いこの時間帯やから……いや、考えるのやめよ。ただでさえこのせまい室内、両サイドの二人のおっさんをカイロ代わりに暖とって、たった90分やが内地の平和で静かな夜の夢でも見よう。
猟銃の銃口をこっち向けたまんまの検問
5時35分。イゴールがごそごそ起きだした。外はかすかに白地んできていた。
フォードはジトーミルを抜けると、しばらく40号線を進んだ。東へ東へキエフに向かうため正面から陽が上り始めた。今日もエエ天気になりそうである。あの雲なんちゅう名前やったけ? 低く細く棚引く雲の間からオレンジ色の太陽が顔を出し、3人の男たちの顔を照らした。東京じゃ、不摂生な毎日送ってるのである。ウクライナの大地を照らす朝日ぐらいは愛でてやろうやないかとカメラを正面に向けようとしたのを両側の二人から押しとどめられた。
また検問所である。
こんどは集落というより村である。焚火の周りには私服というより農作業着のおっさんらがたむろしていた。手にしている銃より鋤や鍬が似合う、ミレーの油絵から飛び出たような、もろ典型的なウクライナの農夫である。銃もまあ水平2連の散弾銃、ウサギや鴨撃つ猟銃や。しかも銃口こっち向けたまんま。ある意味ロシア兵より怖いやんけ。それでも村を守るため老骨に鞭打ってここで毎夜寝ずの番しとるのである。ロシア兵はこんな年寄りも相手にしなければならないのである。