朝日の上がった大地から突然黒煙が上がり始めた
フォードはコチェリフの町中から40号線をはずれ、1028号線に入ってますます道幅が狭くなった。あのまま40号線を進むとイルピンである。
今もロシア軍が町を包囲し市民の頭上に砲弾降らせているあのイルピンである。この2日後(3月13日)ニューヨークタイムズの記者まで撃ち殺したあのイルピンを避け南下し始めた。道が狭くなったから、集落が小さくなったからなんて理由で検問所が無くなるわけもなく、検問所は相変わらずである。
7時。フォードは南東に進路を変え、かなり迂回していく。朝日の上がった大地から突然黒煙が上がり始めた。
「ボヤルカのほうだ」
キエフ南西部、これからワシらが脇を通っていくボヤルカに規模からみて空爆の黒煙がむくむく昇り始めた。さらにもう一発最初の着弾地からさほど離れてない地点から2発目の着弾、また黒煙が昇り始めた。さっき朝日とともに棚引く雲を目を細めて眺めた直後にこれである。今度は太く低く棚引く不気味な黒煙がたちまち朝日を覆い隠し、まるで皆既日食のように一瞬大地が暗くなった。
「ちょっとそこの開けたところで止めてくれ。望遠で撮るから」
「だめだ。目標になりたくない」
「……」
キエフ行きは医療物資を運ぶボランティアの取材のためである。
敵戦車や車両がジグザグで速度を落とした瞬間を狙う
8時過ぎ。せっまい農道から環七に合流したように、だだっ広い通りに踊り出た。今までの道が道である。これまでのスピードがスピードである。片側3車線はこりゃあどう見ても首都キエフ、スマフォのスイッチを入れ、グーグルマップを開けるとちょっとまだ南のはずれやがキエフ市内はもう目の前である。
広い道路のわりには交通量が少ないがそれでも周りの車が飛ぶように追い越していく。フォードはのろのろながらそれでも北上していく。って、やっぱりありましたというか当然検問所、3車線を1車線に狭め、その前後を太いコンクリのバリケードがジグザグに通り抜けられるように置かれている。これは敵戦車や車両がこのジグザグで速度を落とした瞬間を狙うためなのは言うまでもないやろう。