「陸上自衛隊の定員は即応予備自衛官を入れて16万人、戦車はたったの300両(防衛大綱完成時)です。30年前は定員18万人、戦車が1200両でしたから、冷戦終了後のスリム化で自衛隊の戦力はかなり落ちています。戦車の数だけで言えば、ロシアの1個戦車師団程度の戦力しかありません。陸軍だけで約46万人の兵員と2000両以上の戦車を有している韓国では、日本の陸上自衛隊のことを“軽武装部隊”と揶揄する人さえいる状態。これだけの戦力では、侵略してくる部隊を単独で撃退することはほぼ不可能です」

 そう語るのは、元陸将で中部方面総監を務めた千葉科学大学客員教授の山下裕貴氏。ロシアのウクライナ侵攻直後からSNSでは「北方領土」や「沖縄」といった言葉がトレンド入りするなど、自衛隊の“防衛力”に注目が集まっている。

元陸上自衛官・陸将の山下裕貴氏

 もし日本が外国に攻められたら、自衛隊は一体どうやって人々を守るのか、そしてどんな作戦を展開するのか――。小説「オペレーション雷撃」で、中国軍の最新兵器によって占拠された沖縄の多良間島を自衛隊がどう解放するか、というシミュレーションを行った経験がある山下氏に話を聞いた。

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「戦場になる可能性が高い場所としては、北海道と南西諸島」

「自衛隊は“日本を守る組織”ですが、これまで特定の国を仮想敵国と明言したことはありません。ただ現実問題としては、戦闘になる可能性が高い相手としてロシアと中国を想定しているのは確かです。戦場になる可能性が高い場所としては、北海道と南西諸島。とりわけ沖縄の南西諸島は台湾からも近く、自衛隊は現在も与那国島や宮古島に部隊を配置するなど防衛体制を強化しています」

 尖閣諸島周辺海域には中国海警局の公船がたびたび侵入し、緊張した状態が続いている。自衛隊には専守防衛という鉄則があり、「先に撃たれなければ撃てない」とさえ囁かれているが、自衛隊はどんな状況になったら攻撃を開始するのだろうか。

「自衛隊は、政府が防衛出動命令(自衛権に基づき必要な武力の行使ができる命令)を出すまで武力の行使ができません。つまり、目の前に敵軍がいても防衛出動命令が出なければ基本的にこちらから撃つことはできないんです。ただ存立危機事態(日本と密接な関係にある他国が攻撃されたことで、日本国民の生命、自由が脅かされる明白な危険がある事態)として、台湾近海などで活動している米軍の艦艇が攻撃された場合には反撃する可能性もあるでしょう」