「ウクライナの義勇兵に志願した元自衛官の、『人を守りたい』という使命感には敬意を表します。ただ私自身も1人の元自衛官として、彼らを手放しで称賛する気には全くなれません。日本の元自衛官ががウクライナに行って戦闘することは、彼ら自身だけでなく日本に住む私たちにとっても大きなリスクになる可能性があるからです」
ウクライナの義勇兵に志願した元自衛官について慎重に言葉を選びながらそう説明するのは、元陸将で中部方面総監を務めた千葉科学大学客員教授の山下裕貴氏だ。
毎日新聞の報道によれば、ウクライナが募集する義勇兵に70人の日本人が志願し、そのうち50人が元自衛官だったという(募集のツイートは現在は削除)。 SNSでは自身の命を賭してウクライナの人々を守ろうとする彼らに称賛が集まり、“英雄”として見られることも多い。しかし現役の自衛官やOBの中からそれに追随する声は聞こえてこない。
義勇兵への参加は「法的にグレー」
山下氏はその理由として、日本人が義勇兵としてウクライナでの戦闘に参加することの“2つの問題点”を指摘する。
「まず1つは、法的にグレーだということです。日本には『私的に戦争を行うこと』を禁止する法律があるので、義勇軍への参加は私戦予備罪に問われる可能性があります。2014年に過激派組織『イスラム国』に参加しようとした大学生などが、2019年にこの罪で逮捕されています。また現地で戦闘に参加して人を殺した場合は、帰国後に殺人罪に問われる可能性もあるでしょう」
日本の歴史上、私戦予備罪が適用されたのは「イスラム国」のケース1件しかなく、ウクライナ義勇兵への参加がこれに当たるかは不明である。それでも山下氏は、条文や「イスラム国」のケースを考えれば違法になる可能性があるという。
そしてさらに重要な問題として、山下氏は政治的なリスクを強調する。
「元自衛官がウクライナで義勇兵として活動すれば、『日本が特殊部隊を入れている』とロシアが主張する格好の口実になります(ロシアは同様の手段をウクライナで使用している)。そうなれば、北方領土でのロシアの軍事活動がより過激化することにもつながりかねない。義勇兵という存在をロシアがどう見るか、何の口実に使われるリスクがあるか、といった視点が必要です」