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「発砲をためらう人間はそもそも自衛隊に入隊してないでしょう」

 山下氏自身は「日本の国土を守る」ことを教え込まれた元自衛官として、ウクライナの義勇兵募集に立候補しようという考えはちらりとも浮かばなかったという。では自衛隊員が教え込まれる「日本を守る」とは一体どういう感覚なのだろうか。

「自衛隊では皆さんが思い浮かべるような野外での戦闘訓練の他に、“精神教育”と呼ばれる座学の時間もかなり多くとられています。“精神教育”の目的は、国内外の情勢や指揮官の統率方針を聞き、国を守るという使命感を育成することです。教育や訓練を通じて、自分の家族や友人たち、生まれ育った郷土を守るという思いを国を守るという気持ちに育てていくのです」

山下裕貴氏

 自衛隊の精神を表すものとして、山下氏には印象に残っている2つの訓練があると言う。

「幹部候補生学校に入校した当時、“愛国心とはなにか”をディスカッションする教育があり、その時のことを今でも覚えています。改めて聞かれると難しい質問ですよね。ディスカッションでもさまざまな形の“愛国心”が候補生たちから出たのですが、最後に教官がこう言いました。『愛国心に答えはない。1億1000万の国民がいたら1億1000万の愛国心がある。君たちの思う愛国心と違う国民がいても、すべての日本国民を守るのが君たちの任務なのだ』と。型にはまった愛国心が示されるのかと思っていたので驚きでしたが、すべての国民を守ることが自分たちの使命だと気付かされた瞬間でした。

 もう1つは、富士学校幹部初級課程に入校中の、冬の演習場での訓練です。斜度20度を超える滑り台のようなところを延々と攻撃させられて(登らされて)、あまりの辛さに足を止めてしまおうかという思いが学生たちの頭をよぎります。すると後方から教官が『進め進め止まるな1センチでも前に進め。倒れたお前たちのかかとの線が国境線になるのだ』と叫びました。国土を守るのは自衛隊員しかいない。困難に立ち向かい責務を果たせと教官は説いたのです」

写真はイメージです ©iStock.com

 自衛隊の訓練が厳しいことは有名だが、1950年の警察予備隊創設以来、法的な意味で「戦闘」を行ったことはない。実際問題として、自衛官は人に向かって殺意を持って銃を撃つことができるのだろうか。

「国がなくなるか否かという時に、発砲をためらう人間はそもそも自衛隊に入隊してないでしょう。それに銃撃戦と言っても、相手が300メートルも離れたところにいたら自分の撃った弾が当たったかどうかなんて分かりません。もちろんハーグ陸戦協定などの国際法を学び、相手を捕虜にした時の人道的な扱いや殺傷能力の高い兵器は使わないことは徹底的に叩き込まれます」

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