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「助けて。旦那さん起きない」頼りだった日本人の夫が突然亡くなった…フィリピン人の妻を苦しめ続ける“厳しすぎる日本のリアル”

「助けて。旦那さん起きない」頼りだった日本人の夫が突然亡くなった…フィリピン人の妻を苦しめ続ける“厳しすぎる日本のリアル”

『五色のメビウス』より #1

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「ただ安心して暮らしたいだけなのに……」

「かがやき」で働くことは「毎日楽しい」。自分に両親と一緒に過ごした記憶があまりないため、父や母が何人もできたような気がする。一緒に撮った写真がたくさんスマートフォンに入っている。書類を書く仕事も勉強だと思っている。「髭剃り」「咀嚼」など分からない日本語を目にしたら書き順もスマホで調べて覚えている。

 20年1月に国家資格「介護福祉士」を受験した。実母がその前月に92歳で亡くなった。子どもたちと一緒に帰国し、お別れを言った。「母を介護したかった。切なかった」。試験は不合格だったが、また受けるつもりだ。日本語能力試験で5段階中2番目に難しいN2にチャレンジすることも考えている。

 3年前に日本国籍を取ろうとしたが、門前払いされたことも悔しかった。伊那市の長野地方法務局伊那支局で申請しようとした。書類に自分のきょうだい10人の名前を片仮名で書くのに詰まると、職員から「日本人のようにさらさら書けないようでは駄目だ」と言われ、諦めてしまった。

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 申請すると、担当官による面接があり、日本語の能力も審査の対象となる。

 夫が亡くなる前に永住権を取得し、日本に住み続けられるものの、外国籍ではいろいろな制約がある。子どもの住宅ローンなどの保証人にもなれない。介護福祉士の資格が取れたら、日本国籍取得に再挑戦しようと思っている。

顔を出した息子や孫たちと軒下でくつろぐ中嶋さん(中央)。亡くなった夫の仏壇があるこの家に住めなくなる恐れがある。(2021年3月14日、駒ケ根市)

 この春、末っ子の長女が短大を卒業し、県内の有力リゾートホテル会社に就職した。息子たちも既に独立し、それぞれ家族を持っている。孫が2人できた。母親としての役割は果たしたと思っている。

 それでも気持ちは晴れない。20年以上親しんだ家を離れなければならない可能性がくすぶっているからだ。自宅は長男だった夫の実家で、現時点では住む権利があるものの、土地の権利は夫の親戚が持っている。親戚側から家の明け渡しを求められ、裁判で長く争っている。

「ただ安心して暮らしたいだけなのに……」。逆境は続く。

「助けて。旦那さん起きない」頼りだった日本人の夫が突然亡くなった…フィリピン人の妻を苦しめ続ける“厳しすぎる日本のリアル”

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