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 ユン氏は選挙戦で、女性家族部(家族・青少年・女性に関する政策を担う行政機関)の廃止、性犯罪に関する誣告罪(虚偽での告訴)の罰則強化、閣僚の女性クォータ制廃止など、反フェミニズムに同調する公約を次々とアピール。今年2月には、「(韓国には)もう構造的な性差別がない」「女性が不平等な扱いを受け、男性が優遇されるというのは昔の話だ」との発言も飛び出した。

 同月には「女性が若い男性の仕事を奪っている」という演出を盛り込んだ選挙CMを公開。さらに若い男性がSNSで女性を嘲笑するネットスラングを公約関連の文書に使い、対立陣営を呆れさせた。

 反フェミニズムを掲げたユン氏は、海外でも注目を集めている。米誌「タイム」(同年3月10日付)はユン氏の勝利を伝えつつ、韓国の女性議員の少なさ、男女の賃金格差の大きさ、女性の殺人被害者の多さ、また声を上げた女性が男性から受ける脅迫や暴力などを紹介した。

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 一方で「VICE News」などの米ニュースサイトは、「インセル選挙」「インセル大統領」などの見出しで韓国大統領選を報じている。インセルとは、パートナーを作れず女性嫌悪をこじらせる男性のことだ。

選挙で演説するイ氏 ©時事通信社

“K-Trump”というニックネームも

 女性を巡るユン氏のキャンペーンは、社会問題化していた男女間の分断をいっそう深刻にした。だが彼が煽った分断は他にもある。

 韓国ではかねてから保守派の支持基盤である「嶺南地方」、反保守傾向が強い「湖南地方」の地域対立が根深い社会問題となってきた。歴代政権は、その解消と国民の統合を掲げてきた経緯がある。

 だがユン氏は昨年7月、自分たちの支持基盤である嶺南地方の大都市であり、最初に新型コロナ感染が拡大した大邱市を訪問した際、次のように語った。「初期の感染拡大が大邱でなくほかの地域だったら、秩序ある処置や治療ができず、恐らく民乱が始まっただろう」。

 これが過去に封建王朝や政府に反旗を翻した湖南地方を意識した発言なのは明らかだ。大邱市で感染が拡大した際は湖南地方を含む全国が協力してコロナを抑え込んだだけに、地域対立を煽って支持層にアピールを図るユン氏の姿勢は大きな衝撃を与えた。

 政治目的のために憎悪と分断を煽る姿勢は、トランプ元米大統領が記憶に新しい。昨年3月まで検察総長だったユン氏が、政治経験ゼロのまま大統領を目指した点も同じだ。そのため韓国はもちろん、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、中国などのメディアが、“K-Trump” “K-Trumpism” などのワードとともにユン氏を紹介している。