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 与党の対立候補イ・ジェミョン氏が「韓国のトランプ」と呼ばれたこともあったが、人権派弁護士出身で地方行政に携わってきたイ氏には不正確な表現だ。

 ユン氏の問題発言は、ほかにも枚挙にいとまがない。昨年7月には、労働時間の上限を週52時間とした与党を批判して「(ゲーム業界では)週に120時間でも働く」と発言。2カ月後には大学生との懇談会で、「肉体労働をやって(国際的に)通用することは1つもない。そんなことは、もうインドでもやらない。アフリカがやることだ」と言い放った。

 さらにその2週間後には、「貧しい人たちが(政府の衛生基準より)低いレベルの食品を安く食べられるようにしなくてはいけない」と言って人々を驚かせている。そのほか労組団体を「未来を奪う勢力」、市民団体を「権力を支持する腐敗カルテル」と呼び、メディアに対しては「歪曲記事1つで会社が破産するほどの強力なシステム」が必要と力説した。

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「若い女性は組織票としてまとまりにくい」という分析

 3月9日に行われた投票の結果は、ユン氏とイ氏の得票率がそれぞれ48.56%と47.83%。得票差はわずか0.73ポイント、24万7077票だ。

 投票直前に第3の候補アン・チョルス氏が辞退して野党候補が一本化されたため、ユン氏がリードを広げるとの予測もあった。だがイ氏は、焦点の20代で女性票を大きく稼いでいる。ユン氏陣営は「若い女性は組織票としてまとまりにくい」と分析していたが、反フェミニズムへの危機感が彼女たちを与党支持へと結集させたらしい。つまりユン氏は辛勝こそしたものの、「インセル選挙」自体は失敗だったようだ。逆に敗れた「共に民主党」は、敗北したにもかかわらず投票翌日から5日間で女性が中心と見られる新規入党者が約12万人も殺到した。

東京五輪のアーチェリーで金メダルを獲得したアン・サンはショートヘアだったことで国内でバッシングを受けた ©AFLO

 前任のムン大統領の支持率は、今月第3週時点で42.0%だった。政権末期の大統領としては、かつてなく高い。それでも与党が勝てなかったのは、有権者が政権に対する審判として投票したからだといわれる。つまりチョ・グク元法相に始まる数々のスキャンダル、さらに住宅価格の高騰を抑えられなかった失政に対し、多くの有権者が政権交代を突きつけたわけだ。だが一方でユン氏への不安も拭えないという逡巡が、歴史的な僅差という結果につながったのだろう。

 ユン氏の任期が始まるのは5月10日から。韓国の国会は現在、300の議席のうち共に民主党が172を押さえている。次の総選挙は、2年後の2024年4月だ。今年6月1日には、統一地方選も実施される。政治経験のないユン氏が、この不利な政局をどう乗り切っていくのか。出帆早々から数々の波乱に見舞われるのは間違いなさそうだ。