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桜木雄平は誰からも理解されずに死んでいく

──タイトルにも暗示されていますが、本作は主人公の「死に様」を描く小説ですよね。最近は「生き様」という言葉の方がよく使われていますが、「生き様」はもともと「死に様」からの連想で出てきた派生語です。つまり、「死に様」にはその人の「生き様」が宿る。

 病気で死ぬことが分かっている人間が、死ぬまでの時間に何をするかを描くのって、非常にベタな展開だなと自分でも思うんです。それでも何故この展開にしたかったかというと、死に近づいていく時間が一番、他者と向き合う時間のような気がするんですよね。そこで何を思い、他者に何を残そうとしたかによって、その人の人間性を色濃く表現することができる。

幸せのままで、死んでくれ

 そう考えると桜木は、死に様をプロデュースした人なのかもしれません。要は死に様って、他者にどういう物語を与えるかっていうことだと僕は思うんです。「あの人はああいうふうに生きたね」とか「こういう人だったよね」と、死後に他者が語り続けるであろう自分の物語を、どう自分でプロデュースしていくか。

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──なるほど。

 世の中には、自ら死を選んでしまう人もいるじゃないですか。特にこの数年間はコロナもあって、非常に悲しい決断をされる方が増えてしまいました。その行為をしてしまうこと自体は肯定できないけど、死んでしまおうと思ってしまう苦しみ自体は肯定しないと、その人たちを救えないなというか、その人たちに少しだけでも近づけない。そんなふうに考えたことも、この物語には反映されています。

清志まれ本人がシンガーソングライターとして届ける同タイトルの楽曲

 僕自身、一番苦しかった時期に、死について考えたことがなかったわけではありません。その考えを吐露したら、「そういうことを言う人は死なないんだよ」と僕に言った人がいたんですね。今振り返って思うのは、「そういうことを言う人は死なないんだよ」と言った人に対してメッセージを送りたいから、僕は死を選ぶって選択もその時あり得たなって。死というものが唯一、自分がどういう人間だったかを決定づける最後のメッセージになる。だから死を選ぶ、という人もいるんじゃないかと思ったんです。