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 それだけに、当時、ファンの誰もが川栄はバラエティ路線に進むと思っていたはずである。実際、周囲のスタッフもそのつもりで準備を進めていた。だが、本人はこれにはっきりと異を唱える。《川栄李奈をバラエティータレントとして売り出そうとしていた時、「私は女優になりたいんです」と言った彼女の毅然とした言葉を今でも覚えている》とは、AKB48の総合プロデューサーの秋元康が、彼女がグループ卒業後に刊行したフォト&エッセイ集の帯に寄せた一文だ(※1)。

女優を志したきっかけ

 川栄が女優を志したのは、2014年10月期のドラマ『ごめんね青春!』に出演し、演技の楽しさを知ったからだという。しかし、そこには前提となる出来事があった。同じ年の5月に岩手県でのAKB48の全国握手会で遭遇した傷害事件である。このとき、川栄は入山杏奈とスタッフ1名とともにノコギリを持った男に襲われ、重傷を負い、5カ月近く活動を休まざるをえなかった。前出の著書では、その休業中に考えたことを次のように明かしている。

©Getty

《世の中には、なんにも悪いことをしていないのに、道端で知らない人に殺されてしまう人もいます。そういうニュースを見るたびに、自分は絶対にそんな目に遭わないから大丈夫って、根拠のない自信をそれまでどこかに持っていました。

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 だけどあの日、私が事件に巻き込まれました。

「あ、全然大丈夫じゃなかったんだ、私……」ってとても当たり前のことに気がつきました。

 極端なことを言っちゃえば、明日死んじゃう可能性だってゼロではない。

 なら、くよくよ悩んでいないで、自分がやりたいことを早くやろうと活動をお休みしているときに考えていました》(※1)

 事件自体は絶対にあってはならないことだが、彼女にとっては結果的に、この体験を通じて抱いた「自分がやりたいことを早くやろう」との思いが、演技一本でやっていこうという決意につながったわけである。