ウクライナへの全面侵攻を続ける、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領。泣く子も黙る旧ソ連国家保安委員会(KGB)の中堅将校だった彼は、歴史の流れに逆行する反動政治家と位置付けられる。
ここでは、ジャーナリストの名越健郎氏がプーチンの実像を記した『独裁者プーチン』(文春新書)から一部を抜粋し、プーチンの生い立ちやKGB時代のエピソードなどを紹介する。(全2回の1回目/後編に続く)
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ソビエト版アメリカン・ドリーム
米経済誌フォーブス(11年)で、オバマ米大統領に次いで「世界で2番目に影響力のある人物」にランクされたプーチンのキャラクターは、世界の指導者の中でも型破りだ。その言動は特異で、独特の存在感があり、国民を畏怖させる。
KGBのスパイ生活が長いそのキャリアはベールに包まれていたが、自らの発言や調査報道で、経歴の謎は次第に解けてきた。とはいえ、人物像や基本的性格、私生活、表に出ない活動など、まだまだ謎が多い。
プーチンは2000年の大統領選挙戦中、長時間のインタビューをまとめた『第一人者』(邦訳『プーチン、自らを語る』扶桑社)を出版し、半生を明かした。
労働者の家に生まれ、ガキ大将から猛勉強して難関大学を突破し卒業。当時のエリートだったKGBスパイになり、愛国者として活動した。市役所や大統領府で働きながら、ある日忽然と頂点に飛躍するストーリーは、「ソビエト版アメリカン・ドリーム」(ニューズウィーク誌)だった。同書には、生まれてすぐ内緒で洗礼を受けたという欧米向けに施された告白も添えてある。
インタビュアーを務めたKGBに詳しい女性記者、ナタリア・ゲボルクヤンは後に、亡命先のフランスで、「彼は良くも悪くもKGB中堅将校だ。決断力はなく、勇気にも乏しい。勇気ある人をうらやましがっているように思えた。自分のことを話すのが好きだが、その多くが真実とは思えない」と回想した。