2020年、韓国映画『パラサイト』が作品賞を受賞して、体質が変わったことを如実に見せつけた米アカデミー賞。今年は濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』がノミネートされ、われわれも注目せざるを得ないところ。果たして今年の賞の行方は? “専門家”3人が予想を巡って激論!(構成=秦野邦彦)
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注目の作品賞。『ドライブ・マイ・カー』の前に立ちはだかるのは?
猿渡 私が作品賞は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』だと思うのは、ノミネーションが多いだけでなく重要なところを押さえているからなんですね。まず演技部門に4人、監督賞、脚色賞、そして実はキモである編集賞に入っている。これだけたくさん入ってるってことは、どの分野の人が観ても良かったということになるので、強いなと思いました。
メラニー セオリー通りだと『パワー~』が間違いなく本命なんです。私が『ベルファスト』にした理由は、この映画が一番好きだということがまずひとつ(笑)。それから作品賞のプレファレンシャル・バロット方式(1位から10位まで順位を付けて投票するやり方)だと、1位が多いことより2位3位4位にどれだけ多くの人が入れるかで決まるので、2番手3番手につける人が多いであろう『ベルファスト』にしました。
町山 アカデミー賞予想には2つメソッドがあって、『パワー~』のようにノミネート数が多い作品が獲るという考え方と、アカデミー賞以外のSAGアワード(全米映画俳優組合賞)やPGAアワード(全米製作者組合賞)などにたくさんノミネートされている作品。これだと『ベルファスト』なんです。
ところがメラニーさんがおっしゃるように作品賞の投票方式はみんなに好かれる映画が得点を集めやすい。それで考えると『パワー~』は アンチ・ゲイの要素があるのでバックラッシュがあるんじゃないかと思うんです。『ベルファスト』ですらカトリックとプロテスタントの抗争の話なので分断が起きる可能性がある。
そうなると『コーダ あいのうた』は、いわゆるフィール・グッド・ムービー(観た後気持ちよくなる映画)だし、俳優同士のアンサンブルが強いので、これかなと思いますね。