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志村さんより後に食べ、先に食べ終わる

 付き人になってから、ご飯を早く食べる癖がつきました。志村さんと一緒に食事をする機会が多くなったからです。

 一緒にお店に入ったら、まず志村さんの注文を聞いて、自分はそれより安いものを頼みます。志村さんがメニューの中で一番安いもの(もりそばなど)を頼んだときは同じものにします。

 自分の食事が運ばれてきても、先に手をつけることはしません。そして、志村さんより早く食べ終わります。だから早食いの癖がついたわけです。

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志村けんさん ©️文藝春秋

「志村家の犬」の甘噛みが痛い

 ちょっと慣れるのが大変だったのが、「志村家の犬」です。

 志村さんは大の犬好きで、当時はゴールデンレトリーバーやシベリアンハスキーなど、5頭の犬を飼っていました。このうち4頭は室内にいたのですが、シベリアンハスキーだけは玄関先につながれていました。ハスキーには番犬という役割もあったわけです。

 玄関前に車をつけると、主人の帰りを待ちわびていたのか、犬たちはいっせいに吠え始めます。シベリアンハスキーも吠えますが、僕が荷物を運び入れるときはおとなしくしています。

 しかし玄関に荷物を入れ、「お疲れさまでした」とドアを閉めると、シベリアンハスキーの態度が変わります。志村さんがいるときといないときでは、まるで違う態度になるのです。時には「ウウゥー」と低く唸ることもありました。

 シベリアンハスキーのような大型犬に威嚇されると、これはやっぱり怖い。だからといって襲ってくるわけではないのですが、横を通るときに甘噛みをしてきました。犬としては、たわむれているつもりでしょう。しかし、シベリアンハスキーの甘噛みはそこそこ怖く、また若干痛い。

「これくらいじゃないと番犬にならないもんな」

 そう思いながら、毎晩シベリアンハスキーと戦っていました。そんな戦いをしていると、志村さんに言ったことはありませんが……。(#2に続く)

我が師・志村けん 僕が「笑いの王様」から学んだこと

乾き亭 げそ太郎

集英社インターナショナル

2021年2月26日 発売