「良妻賢母型」の子育て政策を推進してきた自民党の罪
――国政レベルでは、幼児教育の無償化が検討されています。
本目 段階的に無償化すると国は言っていました。最初は3~5歳児とのことですが、後から保育園の0~2歳児も付け足しになるのではないでしょうか。
上田 なぜ幼稚園業界ばかり大事にされているのか。私は、ここ20、30年の保育政策を担ってきた自民党の罪は大きいと思いますよ。基本的にはモデルケースになっているのが良妻賢母型なんです。「子育て放棄の働く女はダメだ」という価値観。これでは優秀な女性ほど子どもを産まない。未来の納税者という“金の卵”を産み育てている“金の雌鳥”であるワーキングママをこれだけ疎外して、いまさら「輝け」と言われても……。
本目 専業主婦のほうが育児ストレスは高いという研究結果もあるので、一時的に預けられる施設は、絶対に必要だと思います。保育園で一時保育ができればベストですが、とてもそんな余裕はないので。
上田 幼稚園業界の歩み寄りなくして解決なし、と言いたいですね。現状、幼稚園では乳児を見られないわけですが。
――保育園の「保育士」と幼稚園の「幼稚園教諭」は違う資格だからでしょうか?
上田 いまの若い世代は、両方の資格を取っている人が多いですね。
伊藤 むしろ運営側の意識の問題が大きいと思います。「保育と教育は別物だ」と。
本目 幼稚園が幼保連携した「こども園」になってくれれば、キャパ的にはかなり待機児童を減らすことができます。また、文京区では公立幼稚園が預かり保育を始めたことで、一定の保育園ニーズを吸収できました。
上田 文京区は区長が熱心なので、先進的な取り組みをしていますね。なんでも補助金ありきではなくて、既存のリソースを弾力的に運用することが大事です。保育園の需要増と反比例するかたちで幼稚園は定員割れになっていきますから。幼保連携型こども園への株式会社参入も認められなかったのですが、ユーザー目線で考えるとおかしいですね。公立保育園だけでは、「お泊まり保育」や「土日保育」のような新しいニーズに応えるサービスは打ち出せません。
「知らない子どもの声はうるさいんだよ!」
――保育園の建設をめぐる反対運動は実際にあるんでしょうか?
本目 それはありますね。
伊藤 騒音が体調に影響を与える場合があると。そこはやはり配慮が必要だと思います。保育園としても防音環境を整えることで対応しています。
上田 クレームは高齢者からが多いですね。「公園の子どもがうるさい」なんて声もあります。あるとき、「なんでうるさがるの?」と聞いてみたんです。すると、「知らない子どもの声はうるさいんだよ!」との返事でした。「なるほど」と思って、その人の町会でやっている盆踊りに子どもたちを参加させたんです。そうすると「知らない子ども」ではなくなる。逆に、子どもたちの声が聞こえないと、「どうしたんだ?」と心配されるようになりました。コミュニケーションをとっていくことが大事だなと痛感させられました。
本目 いま、保育園を作る土地がなかなか確保できません。台東区では、都有地か区有地でしか、来年開設できる園がありません。民間で3園募集したものの、家賃の折り合いがつかなかったんです。騒音問題だけではなくて、土地代がオリンピックに向けて高騰していることが影響しています。
伊藤 都心では、どこも土地が悩みの種になっています。新宿区では、民間の賃貸物件を活用した保育園を増やしました。園庭がない点は目をつぶってもらうしかない。待機児童の解消が最優先である点をご理解いただくことが大切だと考えています。
――保育園を建てる上での工夫は他にありますか?
本目 古い建物は、保育園に転用するための用途変更が難しい場合が多いです。また、いろいろな細かい規制もネックになっています。例えば、0~2歳児用の小規模保育園は、児童福祉施設なのでバリアフリートイレの設置が国のルールで義務付けられています。ただ、入所者数が1桁の保育園でも一律にバリアフリートイレが必要なのか。議論を重ねた結果、台東区では区長が認める施設では除外できることになりました。
上田 本当に建物の規制は多すぎますね。建築基準法施行令や消防法で定められている「2方向避難」は、もちろん園児たちの安全性を考えれば必要ですが、実質的には2方向から避難できる場合でも、細かい規制に引っかかってしまうと業界から相談があります。すぐに図面のやり直しを命じられたり……。行政の申請手続きハードルは見直さないといけないと考えています。
本目 台東区では、一定規模のマンションを建設するときに、保育園の併設を求める条例を制定しました。保育園を作らない場合には、負担金を売り出し価格に上乗せしてもらう。今度、その第1号となる保育園ができます。