「ほぼ日ハム手帳」をご存知だろうか。僕は知人のリツイートで知り、最初はうまいネーミングだなぁと笑った。で、フォロワーになって眺めているうち、すっかりファンになってしまった。「ななつぼし」さんという女性が回しているツイッターアカウント上のメディアだ。それもすごくローテク。スクラップブックのような手帳に選手の写真が切り貼りしてあって、そこに試合経過、感想等の書き文字が施してある。イラスト(とても可愛い)が添えられていることもある。

 試合日はその手帳を見るだけで試合の流れが大づかみに理解できる。単なる名場面集ではなく、試合を手帳のページにうつし取ろうとしている。ページの面積は限られているからこれはなかなかの編集力だ。いや、スポーツ新聞の整理部っぽく「面担力」と呼んだほうがいいか。

 ローテクというのはその(写真の切り貼り、書き文字、イラストが配された)手帳が単に接写されてツイッターに上がっていることだ。デジタル展開でなく、物(フィジカル)なのだ。本当に物としてそういう手帳がある。それが異様な熱情で「ほぼ毎日」上がっている。もちろんプロではない。熱情のおもむくまま「ほぼ毎日」続けているだけだ。

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 僕は旧友みうらじゅんの「エロスクラップ」を連想した。異様な熱情で40年以上続けられ、優に600巻を突破したという「グッときた写真の切り貼り帳」。あるいは大竹伸朗のコラージュワークだ。気になるものをスクラップブックに貼り付ける原初的な表現行為。「ななつぼし」さんも貼り付ける行為に執着している。モニター上でレイアウトするのではなく、物(フィジカル)を糊でペタッと貼りたい。たぶん貼ることで自分の手の内に入るというか、感触がつかめるのだ。

 本当は当コラムでもビジュアルでお見せしたいのだが、写真の権利関係があって叶わない。何といっても文春野球は文春オンラインという商業媒体のコンテンツだ。「個人で楽しむ」という分を超えている。だから、実物は「ななつぼし」さんのツイッターをご覧いただくとして、僕は「ほぼ毎日」手帳を更新し続けるこの奇特なハムファンがどういう出自で、どういう考えからこの荒行を続けているのか、その点を掘り下げたいと思う。

本当にほぼ日手帳で制作されている「ほぼ日ハム手帳」

 ご紹介しましょう、「ほぼ日ハム手帳」製作中の「ななつぼし」さんです。

顔出しNGなのでここまで。「ほぼ日ハム手帳」のななつぼしさんなのである。

 とはいえもちろん匿名・匿住所であり、顔出しNGなのだ。手帳に「ムスメ」や「ジナーン」が登場することがあるので、何となく家族構成は想像していたが、都心ターミナル駅のスタバで待ち合わせたものの、一体、どんな感じの人が来るのか見当もつかなかった。とりあえず目印として僕はブルーのファイターズ帽をかぶった。鎌スタのショップで買った新しいキャップだ。まだ都内のスタバでは(スタバでなくても)誰もかぶっていない。ずば抜けて視認性が高い。

「ななつぼし」さんは北海道米のアカウントネームでおわかりかもしれないが、函館出身の道産子だった。とても小柄で、話すときよく表情が動く。高校卒業後、テレビ制作の仕事がしたくて東京に出て来られたそうだ。TBS『ザ・ベストテン』のADがやりたかった。専門学校で学び、実際にテレビの現場にもぐり込んだ。だからクリエイティブな資質は元々あった方なのだと思う。結婚されて、3人のお子さんに恵まれた。お子さんは皆「成人済」だそうだ。年齢はお聞きしなかったが、ちょっとそんな大きなお子さんがいるようには見えない。

 笑ったのは「ほぼ日ハム手帳」が本当にほぼ日手帳で制作されていることだった。だからA6判(文庫本サイズ)なのだ。あの面積のなかに写真を貼りつけ、イラストを描き、書き文字を配する。ポイントをしぼり込む思い切りが必要だ。ちなみにほぼ日手帳にはカズンという大きい判型(A5判)のものもあるが、これだと要素が入りすぎて「手に負えなくなる」(ななつぼしさん)そうだ。たくさん載っけられればいいというものでもない。

ホントにほぼ日手帳を使っているのが笑う。