この他にもマラリアの感染だったりと、命の危機を何度も迎えるたび、不思議とあと一歩のところでいつも救われました。当時はずっと『ラッキー!』と思っていましたが、さすがに出来過ぎているな、と。聖書には『神は天使を遣わしてあなたを岩に打ちつけられるのを守ってくれる』という記述がありますが、そこまでして神様は俺をクリスチャンにして、牧師にしたかったんですかねえ。何を考えているのか、わかりませんが……」
こうした旅先での幸運が、徐々に青年の心を解きほぐし、牧師になる土壌を育んだようだ。
タダ飯のため、日系人が集う教会へ行ったものの…
初めてキリスト教の礼拝に訪れたのは、旅費を稼ぐために滞在していたアメリカだった。
「タダで日本食を食わしてくれると聞いたので、日系人が集う教会に行ったんです。そこで礼拝に初めて参加しました。なんというつまらなさ、献金まで捧げてバカじゃないかと思いましたよ。話しかけられるのが嫌で、飯は壁を向いて食っていましたね。そうして無視をしていれば人は去っていくのですが、それでもニコニコと“クリスチャンスマイル”で話しかけてくるおじさんがいました。面白くもねえのにニヤついてるのを見て、ムカつきましたね。
ある時いつものように無視していると、彼に『中村さん、どうですか教会? 何度か来ましたけど、キリスト信じましたか?』と慣れない日本語で言われたんです。それでプッツンとキレてしまい……。食っていた飯の皿を地面に叩きつけて胸倉をつかみ、知っている限りの“Fワード”を吐き捨てました。それから日本語で『二度と俺に信じるとかなんとか寝言を言うんじゃねえ!』と怒鳴りつけ、帰ってきました。その間も、その人はずっとニコニコした顔を崩さなかった。今思えば、なんとひどいことをしたんだと思いますが……」
ふいに頭に響いてくる“声”が…「泥酔散尿牧師」と呼ばれて
後日、「あれだけ言われても平然と笑みを崩さないなんて、大した男だな」と思いながら、酒を飲み、ふらつきながら自宅のトイレで用を足していると、ふいに頭に響いてくる“声”があった。
「説明が難しいですが、聞こえてくるというより、脳に直接的に語りかけて来るというんでしょうか。『Where are you?』、それに続いて『What are you doing?』と言われたんです。そんな酔っ払ってるわけでもなく、タダ事じゃねえと思いました。そのまま答えれば『トイレで小便をしている』わけですが、そんな馬鹿みたいなことを聞くわけがない。
それから俺はどこにいるのか、何をしているのか、変に考えこんじゃいましてね……。直接のきっかけというわけでもないですが、その半年後、牧師になる決意を固めて洗礼を受けました。聖霊の導きということでしょう。こんな話を以前、香港のリンゴ日報の記者に話したもんだから、『泥酔散尿牧師』なんて書かれてしまいましたが(笑)」