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60代を控えて突然「日本に帰れ」という“神の指令”が

 その後、中村牧師は日本に帰国し神学校を卒業。日本で数年牧師を務めた後、初めて礼拝を訪れたアメリカ・カリフォルニアの教会に赴任し、20年以上の教会生活を送った。家も3台のクラシックカーも持ち、信徒数は増え、“景気”はうなぎのぼり。このまま安泰した生涯をアメリカで送るつもりだったが、60代を控えて突然訪れたのは、「日本に帰れ」という“神の指令”だった。

©️文藝春秋

「神様の“声”はいつも初め、心に来るんです。『日本に帰れ』という思いが来たのですが、冗談じゃない。気のせいだし、そんなの神様じゃねえと思いを打ち消しました。私はアメリカに骨を埋めるつもりでしたからね。でもしつこくて、次々とやって来るんです。パッと開いて見た聖書の一句が『私が示す地にいきなさい』と創世記で神がアブラハムに語りかけるシーンだったり、果ては古い友人が突然車で8時間かけて教会にやってきて『日本に帰った方がいい』と言い出したり……。

 こういうことが重なりまくって、『ああ、こりゃもうダメだ』と思いました。教会も組織ですから、『神様に言われた』なんて本部に言っても絶対通らない。諦めて、家も車も全部売っ払い、日本に帰国しました。給料もなくなるし、家もない。『責任とってくださいよ』と言っても、神様は具体的なことは何も答えないんですが(笑)」

ゴールデン街のイベントスペースで『教会やってもいいですか?』

 帰国後はひとまず、知人の新宿の空き家に住まわせてもらうことになり、懐かしさから新宿を散歩している時に偶然、通りがかったのがゴールデン街だった。

「大学生の頃によく飲んでましたから『まだあるんだ! 懐かしい!』と感激しました。それで店を見ているうちに『ROCK R&B SOUL BAR』と書かれた、ここ『WHO』という店に入ったんです。ソウルもR&Bも私大好きですから。そこで客として知り合った別のゴールデン街の店の店主から、昼間にイベントスペースとして英会話教室とか『紅茶を味わう会』とかやっていると聞いた。それで、この町にイエス様がいるかはわからないが、ここで伝道をやったら面白いんじゃないかと思い、『じゃあ俺、教会やってもいいですか?』と聞いたら『いいですよ』と。それがきっかけとなり、牧師バーを始めました」

©️文藝春秋

 

 中村牧師のもとには今では、ノンクリスチャンから夜の町で働く人まで、様々な酔客が訪れる。

 そのたびに、今でもある若かりし頃の思い出が脳裏を掠めるのだという。

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