「一人っ子政策」の闇 “買う側”への軽い刑罰
中国ではこうした、女性や子供の誘拐や人身売買が1980年代から90年代に多く行われ、その影響は農村部を中心に今も残っていると言われる。
監禁の疑いで逮捕された夫が逮捕前、顔を隠すことなく堂々と地元企業の取材に応じているのは「女性を買うこと」に対して罪悪感が一切ないことを意味していると言える。背景には中国が人口増加を抑制するために行った「一人っ子政策」が関係している。この政策によって中国では「跡継ぎ」となる男児を望む傾向が強くなり、特に農村部では跡継ぎとなる男児が生まれない場合どこからか別の男児を連れてきたり、また跡継ぎの男性に結婚相手がいない場合は今回のように女性を買って連れてくるケースがあったという。
逮捕された夫は8人の子供を授かった理由について「自分が33歳にもなって結婚していなかったのを皆に馬鹿にされたから」と話していて、妻に対する愛情などは一切語っていなかった。
首都・北京で子供を持つ母親や女性に今回の事件について話を聞くと、ほとんどの女性が「人身売買という誘拐犯罪に対する刑罰が軽すぎる」と話した。
中国の法律では、女性・児童を誘拐し売った場合は「懲役5年以上10年以下」。また3人以上を売った場合などは「10年以上の懲役」となり、悪質だと「死刑」も適用される。しかし「誘拐された女性や児童を買い取った罪」に関しては「3年以下の懲役・禁固など」とされている。これは、稀少動物の売買(5年以下の懲役)や稀少植物の売買(7年以下の懲役)よりも軽い刑罰となっている。
人権問題の扱いは変わるか?
中国では習近平国家主席が掲げた「共同富裕」というスローガンのもと、貧富の格差を是正し全ての人が豊かになることを目指していた。しかし、今回発見された女性の姿や境遇が中国社会に与えた影響は非常に大きいものだった。
これを受けて、2022年3月に行われた中国の国会にあたる全人代=全国人民代表大会では中国共産党ナンバー2の李克強首相が「人身売買事件の厳罰化の必要性」を強調するなど新たな動きも出ている。さらに中国当局はこうした人身売買や誘拐を防ぐため「未解決の誘拐事件の再捜査」や「行方不明の子どもの情報のインターネット公開」「血縁関係者を探すためのDNA検査場の全国設置」などを進め、その結果、2021年1年間で行方不明者1万932人が発見された。中には74年間行方不明になっていた人もいたという。
中国では経済大国になった今も、ウイグル族など少数民族の問題や元副首相による性的関係強要を告白した女子テニス選手の問題など、人権の軽視がたびたび批判されている。今回の事件は、こうした中国の「歪み」が表面化したものと言えるだろう。
今後、中国における人権問題の扱いは変わるのか。法律を厳罰化してもそこに需要がある限り、誘拐や人身売買の犯罪がなくなることはないだろう。異例の3期目入りを目指すといわれる習主席にとって何よりも重要な「国内の安定」維持は今後の政権運営にかかっている。
【執筆:FNN北京支局 河村忠徳】