問題の凄惨さを見て見ぬふりをしてきた人たち
実際、日本の国会・参院外交防衛委員会に参考人として出席したウクライナ人政治学者のアンドリーさんが、降伏することで無抵抗に殺されてしまうリスクについて明言し、元日本維新の会・橋下徹さんやタレントのテリー伊藤さんらの「ウクライナは降伏して平和を回復するべき」や「ウクライナはロシアに勝てないので抵抗は無駄」などの主張を一掃しています。というか、テレビやラジオなどマスコミがこれらの議論を平然と放送している事実に驚くぐらいです。
グレンコ・アンドリー氏「降伏は今以上の殺戮につながる最悪の選択肢」
https://www.sankei.com/article/20220329-YCKQKGHNHRJHHD3XVZB6RLMRIE/
いま「ウクライナかわいそう」と言っている人たちは、チェチェンやジョージア、シリアなどでロシア軍を含めた専制主義国家の軍隊がかの地の国民に対して行ってきた残虐行為を知らなかったか、見て見ぬふりをしてきただけでしょう。いざウクライナというルーシ人、もっと言えば白人の住む国家が欧州メディアや英語圏の人たちの篤い同情をひいて繰り返し報じられるようになったからこそ、問題を突き付けられ、その凄惨さの前に右往左往している、というのが実態ではなかろうかと思います。
平和的外交交渉によるロシアからの領土回復
いまの日本の安全保障の文脈で言えば、2014年のクリミア危機、クリミア半島の併合という事実上の武力による国境線の現状変更という抜き差しならない事態に対して、日本外交は穏便な対露外交に終始してきました。
というのも、第2次安倍政権における対ロシア外交は、外務省が重ねてきた日露交渉の過程を必ずしも完全にトレースするものではなく、2003年の総理大臣・小泉純一郎さんの訪露での露大統領プーチンさんとの首脳会談を行う以前と、10年の時を経て2013年に訪露した安倍晋三さんの首脳会談以降とで、様相が大きく異なっています。
日ソ・日露間の平和条約締結交渉
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/hoppo_rekishi.html
実のところ、2014年のクリミア危機について政治学者の六鹿茂夫さんが主査となってまとめた「ウクライナ危機と日本の地球儀俯瞰外交」報告書でも、当時安倍政権が前のめりになっていたロシアとの平和条約締結、一部の北方領土返還論について率直な危惧が示されるとともに、2022年のウクライナ侵攻までの外交的メカニズムやロシア政治の動きがほぼ言い当てています。単に情緒的な「ロシアは約束を守らない」という議論ではなく、日本にもまた、ロシアの性質をきちんと研究し、起こり得る未来に対して警鐘を鳴らす知識人たちがいたという事実は知られるべきでしょう。