その代表例は、政府が梯子を外したも同然になっているロシアからのエネルギー輸入についての大事なプロジェクトであって、特にLNGの輸入においては日本政府が直接出資しないオール民間のプロジェクト「サハリン2」から日本のLNG需要の約9%を担うだけでなく、そもそも「サハリン2」から輸入する天然ガスは100万BTUあたり10ドル程度という価格になっています。
しかし、現在エネルギー危機を迎えている昨今、自由に市場から買い入れられるスポット市場で天然ガスを輸入する場合、現在の価格である35ドルから40ドルで計算すると実に年間1兆円前後のエネルギーコストの上積みとなることが確実視されます。
現行の経済を回せるだけの発電量を確保できない恐れも
また、ロシアとの資源貿易においては日本側の資源8社(東京電力フュエル&パワー社と中部電力の火力燃料合弁のJERA社や東京ガス、九州電力など)はテイク・オア・ペイ条項というオプションを結んでいます。
テイク・オア・ペイ条項とは、LNGプラントなど兆円規模の巨額投資を必要とする大規模プロジェクトについては、JERA社など買う側(大口引き受け手)が存在しない限りプロジェクトが成立させられないこともあり、買う側(つまり日本側)が天然ガスを引き受ける、引き受けないにかかわらず産出した代金を支払い続けなければならない、という条件が課せられているわけです。
安全保障上は、ロシアのような武力による現状変更のロジックをそのまま中国が使った場合に、中国にとっての「国内問題」である台湾併合だけでなく、日本のエネルギー輸入の大動脈であるマラッカ海峡から台湾海峡まで危機が訪れる可能性は指摘せざるを得ません。
そればかりか、日本の天然ガスの一角を担う「サハリン2」などのプロジェクトが危機に晒され、資源を産出しない日本が割高なスポット市場でのエネルギー供給に依存し始めると、日本経済は「資源高によるインフレ」どころか現行の経済を回せるだけの発電量を確保できない恐れすらあります。
経済協力という絵空事でロシアを勘違いさせてしまった
ロシアによるウクライナ侵攻によって炙り出された日本の本当の問題とは、長きにわたった安倍政権の、官邸の中で行われてきた側近政治がもたらした対露外交の失敗であって、本来の意味での安全保障やエネルギー調達のグランドデザインを描くことなしに日露経済協力という絵空事でロシアを勘違いさせてしまった面はあるのでしょう。これらの話題は、シベリア抑留もすべて忘れて日露関係改善と安倍プーチン両首脳の人間関係で領土問題の解決を狙った今井尚哉さんや前田匡史さんら側近たちの問題に他なりません。
その点では、日本にとっての戦後はいまだ終わっていないばかりか、シベリアの地に消えた日本人の命もきちんと弔われないまま放置されてしまった面はあります。
昨今では安倍晋三さんも核の共同保有など、センシティブな政治課題でも意欲的に発信を進めていますが、ぜひこのあたりの問題についても光を当て、力を尽くしてくださればと願う次第です。