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 クリミア危機の時点で、ロシアとの外交においてLNG(液化天然ガス)や海産物など資源取引においてはともかく、北方領土の帰属という領土問題において深入りするべきではない状況であったにもかかわらず、安倍晋三さんが政権を挙げて平和的外交交渉によるロシアからの領土回復に血道を上げた理由は、歴史に偉大な宰相としての名前を刻みたかったからでしょうか。

完全に行き詰まった、北方領土返還を巡る日露交渉

 そもそも、北方領土問題は1956年日ソ共同宣言以降、平和条約を結ぶ方針とともに歯舞群島及び色丹島については、平和条約の締結後、日本に引き渡すことにつき同意されていました。にもかかわらず、旧ソ連が新たに日本領土からの全外国軍隊の撤退などの条件を付けたことで交渉が停滞したまま、いまなおロシアが実効支配しています。

 安倍晋三さんはプーチンさんと対面だけでも27回、面談による交渉をしています。かかる歴史的問題について、安倍さんとプーチンさんの個人的な信頼関係をテコに、領土返還を実現させようと考えたのです。

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 しかしながら、安倍政権最終盤に、これらのロシア外交への前のめりが発生し、また、足元を見たロシア外交筋からの拒絶にあい、立ち往生を余儀なくされます。いままでの日露外交の文脈では必ずしも主流ではなくコンセンサスもなかった「2島返還論」が日本側から譲歩案として提示されたばかりか、2016年には安倍さんの地元である山口県長門市の名館・大谷山荘での日露首脳会談で「4島での特別な制度の下での共同経済活動」という、領土問題よりも経済協力を先行させる外交を進めました。

 結果的に、これがロシア側には「領土主権問題の棚上げ」と映り、事実上ロシアの管轄下での極東開発を行うことを意味する北方4島での経済特区事業の拡大を発表。そこにロシア主導のもと、ロシア法に基づいて中国や韓国の資本も入ることから、北方領土返還をめぐる日露交渉は完全に行き詰まることになります。

確実視されるエネルギーコストの上積み

 これらの官邸による外交方針は、安倍晋三さんの発意というよりは当時の安倍総理秘書官の今井尚哉さん、総理補佐官・長谷川栄一さん、国際協力銀行(JBIC)の前田匡史さん、および推進役となった経済産業大臣の世耕弘成さんであることは論を俟ちません。いわば、外務省が担ってきたロシア外交と官邸が進めるそれとが完全に二元化してしまい、こんにちにいたる日露外交の禍根を残してしまったことになります。

世耕経済産業大臣兼ロシア経済分野協力担当大臣がロシア連邦に出張しました
https://www.meti.go.jp/press/2019/09/20190906005/20190906005.html