授乳があけた飲酒解禁日に女が望むこと
4編目の「エルゴと不倫鮨」では、創作鮨にワインを合わせるのがウリの洒落た店に、生活臭まみれの子連れ女性がやって来る。このストーリーも、自身の体験に絡んでいる?
「そうですよ。私も現在育児中でして、同じ境遇の友人とよく話します。美男美女が表紙を飾る『東京カレンダー』に載ってるような店に、うちらは子どもを背負って行きたいよねえ、と。その願いを登場人物に実現してもらったというところです。
近所に気取ったデート鮨店があって、かつてはハードルが高くて行けやしなかったのだけど、このところは子ども連れでもオーケーになっているので行ってみたんですが、まあなんとも使い勝手の悪い店だったなという経験も、話に生かしてあります。
登場人物の女性は、妊娠から授乳までの1年9ヶ月、飲酒を我慢していたという設定ですが、これはまるっきり私の体験そのままです。私の場合は解禁の日、作家仲間の西加奈子さんのお宅で開かれるお花見に出かけました。いいワインを飲ませていただき恍惚となって、その後の数時間は記憶がなく、気づけば、子どもと家族が待つ家にいましたね。まあそれくらいお酒が楽しみになるものなんです」
女性目線を獲得した「舅」の物語
「立っている者は舅でも使え」は、離婚協議中で夫と別居中の女性のもとへ、夫の父親、つまり舅が転がり込んでくる。そういう実例があるのだそう。
「上野千鶴子さんの本の中に、夫と離婚して家を出たら舅がついてきた話が出てきます。息子と暮らすのは無理だからあなたについていくと言われ、困ったのであれこれ押し付けて追い返そうとしたら、どんどん家事スキルが上がっていったという。その舅は自分の境遇に必死に食らいついて、女性と同じ目線を獲得したわけです。
なんだか変わった人ではありますが、彼が懸命に食らいついたというところが重要です。女性が生きづらさを抱えて必死に日々を送っていることを理解できたなら、男性の側も必死になってくれないと話が合わないじゃないですか。そこに気づいてくれるきっかけになるといいですよね」
「私の考えと世の中の動きが透けて見える」ものを書きたい
さて第6編は、「あしみじおじさん」。少女文学好きの少女が、作品の主人公さながらのハッピーエンドを期待するお話である。
「私は小さい頃から少女小説を愛読してきました。それで気づいたのは、作中の女の子が自己表現を成した結果として、富裕層である大人の側の心情が変化し、考えや行動を変えるパターンが多いということ。このパターンを現代に落とし込むことはできるだろうかという試みとして、書いてみました。
こうして見ていくと、私の作品っていつも、私が毎日考えていることがかなり色濃く入っています。私の頭の中で紡がれるのだから当たり前かもしれませんけど。私の考えと世の中の動きが、物語から透けて見えるようなものになっていれば幸いです。
手にとってくださる人が、楽しく読んで元気になってもらえたらうれしい。あ、もちろん読者の性別は問いませんよ。男女ともども、ぜひにと思います」