人と関わるお骨上げには“ストーリー”がある
――なぜお骨上げの方が好き?
下駄 火葬は1人で黙々と作業することが多いので、火葬してて誰かに怒られることはない。一方で、お骨上げは人との関わりなので、全然マニュアルどおりにいかないことばかりなんです。でも僕はそういうところに“ストーリー”があっていいなと思うんですよね。
――お骨上げの最中には、具体的にどんなストーリーがあるのでしょう。
下駄 ほっこり系と怖い系の話があるので、それぞれお話ししますね。
まずはほっこり系。ほっこりというか、ある意味困った話なんですけど。火葬場職員って、基本的に笑っちゃいけないんですよ。もちろん愛想笑いもNG。それを知ってか知らずか、ときどき職員を笑わそうとしてくる人がいるんですよ。
ある時のお骨上げで、下顎がきれいに残ったご遺体があって。かなりご高齢の方だったのですが、歯もしっかり残っていました。それを見て、「わしの入れ歯、ここにあったんか~!」とボケるおじさんがいて。
――それはきつい……。では、怖い系は?
下駄 人間的な怖い話なんですけど、遺族の中にはなぜか「骨壷を持ち帰った人が遺産を相続できる」と思い込んでいる方がたまにいるんですよ。実際にはそんなことないのに。それで、遺族同士で誰が遺骨を持ち帰るか、お骨上げの最中に争うことがあるんです。
ある時、おばあちゃんとおじさんが2人で骨壷を奪い合い始めて。僕もなだめていたんですが、あまりに激しく奪い合った結果、おばあちゃんの腕の骨が折れて「ぶらーん」ってなったんですよね。
それでもおばあちゃんは「骨壷は絶対渡さへん!」って譲らなくて。腕をぶらーんぶらーんさせながら。この時はさすがにびっくりしましたね……。
――本当に、お骨上げはマニュアル通りにいかないことだらけですね……。
下駄 そうですね。あとは、お骨上げで人と関わることが多いからこそ、「この職業に対する偏見はまだまだ残っているな」と感じましたね。