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下駄 実際のご遺体は、もっといろんな意味でリアルなんです。手触りも臭いもある。高い志を持って入社される方ほど、そのギャップにショックを受けて数日で辞めてしまう方が多くて。

 意外と、「家の近くで通いやすいから応募しました」くらい気軽なノリで応募した方のほうが長く続くことが多いです。

 そういう方は「火葬場も近所のコンビニやスーパーとたいして変わらない」というくらい火葬場の存在を特別視していないので、実際に仕事をしてもギャップを感じないんでしょうね。

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「普通じゃないんじゃないか」と勘ぐられる

――下駄さんはよく「火葬場の情報をもっと伝えていきたい」とおっしゃっていますよね。現状ではクローズドな部分が多いからこそ、特別視してしまう風潮があるのでしょうか。

下駄 これまでほとんど語られてこなくて、クローズドで内情がわからないから、「普通じゃないんじゃないか」と勘ぐられるんだと思います。それは、火葬場職員とご近所さん、遺族との関係だけじゃなく、遺族同士でもそうです。

――遺族同士でも?

下駄 火葬場職員になったけど、どうしてもご遺体と向き合えなくて早々と辞めてしまう人がいるように、遺族の方の中にもお骨上げがどうしても苦手な人がいるんです。

 それは本来、まったく悪いことではないんですよ。人によって得意不得意はあるので。僕だって「バンジージャンプしろ!」って言われても無理なものは無理やし。

 

 でも、お骨上げを辞退すると、別の遺族から「最期なのにひどい」と言われてしまう。それで無理して参加して、倒れてしまう方もいるんです。身近な人が亡くなったショックで、ただでさえ心身ともに疲れ切っているところに苦手なことを強要されたら、そりゃあ倒れますよね。

 火葬場もお骨上げも、普通の日常の一部なんです。「火葬場は特別だから、苦手なことでも無理しなきゃ」とか思わなくていいんですよ。

写真=石川啓次/文藝春秋

2回目に続く

最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常 (BAMBOO ESSAY SELECTION)

下駄 華緒 ,蓮古田 二郎

竹書房

2021年9月24日 発売

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。